EVENT REPORT

Jun 2019

いま、イノベーションをあらためて考える
~イノベーション経営への挑戦~

目的をマネジメントする

目的をマネジメントする

目的をマネジメントする

目的をマネジメントする

最近のイノベーションは、以前のように企業の研究所や事業部門が考えた新しい製品を社会に提供して普及させようとするサプライヤー・サイドのロジックによるものから、ソーシャル・イノベーションやオープン・イノベーションといったディマンド・サイドのロジックにシフトしている。

「ディマンド・サイドのロジックの方法の一つがデザイン思考です。たとえばアントレプレナーやスタートアップは市場の隠れたニーズ・暗黙知を共感して表出化させ、システムや技術を連結して試行錯誤的に社会に展開していくという、知識創造のプロセスを体現するのですが、これはまさにデザイン思考のプロセスです。しかしデザイン思考のワークショップだけではイノベーションは生まれません。日常の中にデザイナーの構想力を埋め込み、それを自然と発揮する文化を持った組織をつくることが必要です」。

そして、イノベーションを興す上で最も大切なのが「目的」だという。

「イノベーションの難しさはダイエットに似ています。長期にわたる努力が必要にもかかわらず、目先の誘惑や忙しさにかまけて努力を怠ってしまい、致命的な最期が来た時に真実に気づく。『わかっていたのに、やっぱりその時が来てしまった』ということになりかねない。そのためイノベーションは平時に行うのが鉄則です。本当に会社に火がついて戦時になってしまったらもう手遅れ。そうならないために最も重要なのが、目的なのです」。

目的の重要性はドラッカーの時代から言われ続けている、当たり前のことだ。だが現実では、技術も金も人材もすべて揃っているのに、目的が喪失しているのが多くの日本企業の症状だと紺野さんは話す。

「トップが『今こそイノベーションを』と言っても、目的がないために社員の意思をエンパワーメントできていない組織が多いと感じます。よく混同されがちですが、目的と目標は違います。本来目標は目的に基づいて作られるものですが、目的なき目標設定も多い。『これをしたい』と思った意味や意義、価値といった要素からなる目的が明確な企業とそうでない企業とでは、明確な企業の方がイノベーションに向かわせる投資への積極性が高いことがわかっています。つまり目的が明確な企業の方がイノベーションに向いているということです」。

そうしたなか紺野さんは、目的をうまくビジネスに使っていくという観点で、「目的工学」(パーパス・エンジニアリング)という考え方を提唱している。

「目的工学とは、社会的意義のある価値を形成するために最上位にある大目的を発見・創出し、マネジメントすることです。そのためには組織を超えたメンバーの想いを束ねた『目的群』をつくり、実際にプロジェクトを動かしていきます。目的意識に目覚めた個々人の想い、つまり目的群が大目的とつながったとき、そのプロジェクトは成功するのです」。

講演後も会場からは積極的な質問が飛び交った。エンドユーザーとの距離が遠いB2B企業がドライブするためには、B2B2Sの視点で社会を観察し、未来の社会や顧客、エンドユーザーの行動や位置づけを構想することが重要だということや、ジェネレーションギャップの大きいZ世代とも徹底的に対話することで相互理解は可能なことなど、最後まで様々な示唆をいただいて本イベントは終了した。


<Jun.2019 鈴木 潤子(WAO事務局)>

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いま、イノベーションをあらためて考える
~イノベーション経営への挑戦~

紺野 登

多摩大学大学院教授 / エコシスラボ 代表
早稲田大学理工学部建築学科卒業。株式会社博報堂マーケティング・ディレクターを経て、現在多摩大学大学院教授(学術博士)、慶應義塾大学大学院SDM研究科特別招聘教授、
一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)及び一般社団法人Future Center Alliance Japan(FCAJ)代表理事。
組織や社会の知識生態学(ナレッジエコロジー)をテーマに、リーダーシップ教育、組織変革、研究所などのワークプレイス・デザイン、都市開発プロジェクトなどの実務にかかわる。著書に、『ビジネスのためのデザイン思考』、『利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのか(目的工学)』、野中郁次郎教授との共著に『知識創造の方法論』、『構想力の方法論: ビッグピクチャーを描け』などがある。

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