EVENT REPORT

Jul 2019

地図×デジタル
~災害マップにデジタルを掛け合わせた理由~

テクノロジーの進化によって加速するデジタル化。デジタルは私たちの課題を解決してくれる有効な手段となる一方で、手段と目的を混同してしまい、その効果が発揮されずに課題の解決に至らないことも多くみられる。

そこで今回のWAOでは、課題解決のためのデジタルという手段の活用を学ぶため、クライシスマッパーズ・ジャパンの代表を務める古橋さんを迎え、イベントを開催した。

クライシスマッパーズ・ジャパンは、自然災害、政治的混乱等の危機的状況下で地図情報を迅速に提供し、世界中に発信・活用することを目的として活動している。こうした古橋さんの取り組みからデジタルを活用するメリットや本質とは何かを学んでいく。

ボランティアによる地図づくりが進める「地図の民主化」

ボランティアによる地図づくりが進める「地図の民主化」

NPO法人クライシスマッパーズ・ジャパン代表の古橋大地さんは、2015年に新設された青山学院大学の地球社会共生学部の教授も務め、学生向けに地図や地理学を専門として教えている。

学部新設後、古橋さんが出張した先はニューヨークの国連本部。国連内で人道支援を行う組織、OCHA(国際連合人道問題調整事務所)とOpenStreetMap U.S. が主催する「State of the Map US」の場でこれからの地図づくりについての話し合いに参加した。

国連は国と国との交渉をおこなう、かなり政治的な場であり、国境問題などの観点からも、地図を気軽に扱うことはできず、かつては、国連が保証するために内製していた。それが、2015年前後から、国連はボランティアとも一緒に地図を作っていく方向に転換したという。

「これを『地図の民主化』と呼んでいます。もちろん、センシティブな領域については、国連が主導した方がよい場合もありますが、一般的に使う地図については、みんなで一緒に作っていくというOpenStreetMap(OSM)活動が国連だけでなく世界銀行やアジア開発銀行などの国際機関で推奨されるようになりました。」

デジタルの活用によって広がる「オープン」な地図

デジタルの活用によって広がる「オープン」な地図

OSMは、2004年に始まった活動で、その特徴は、国や地方自治体、民間企業らが保有している地図データとボランティアが提供する地図データを混ぜ合わせて使用している点だ。

OSMこそデジタル化が普及したことによって可能となった地図の作成手法だ。

作成方法はWikipediaのような市民参加型の仕組みを参考にしており、誰でも編集権限を持てる地図データとなっている。現在、延べ参加人数(アカウント登録数)は世界で500万人を超え、そのうち100万人ほどが実際にデータを登録している。1日あたりでは、平均5,000人が無償ボランティアとして地図を編集していると古橋さんは教えてくれた。

オープンであることにこだわっているOSMは、許諾不要で商用利用も可能としている。こうした、あらゆる面でオープンな地図であるOSMに市場の期待は高い。いまでは世界各国の有名企業がOSMを活用するだけでなく、資金・人的リソースなどの運営面での支援もおこなっているという。

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地図×デジタル
~災害マップにデジタルを掛け合わせた理由~

古橋 大地

青山学院大学 地球社会共生学部 教授
特定非営利活動法人クライシスマッパーズ・ジャパン代表

1975年東京都生まれ。東京都立大学で衛星リモートセンシング、地理情報システムを学ぶ。2001年、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻修了。05年からマップコンシェルジュ株式会社 代表取締役を務める。地理空間情報の利活用を軸に、Googleジオサービス、オープンソースGIS(FOSS4G)、オープンデータの技術コンサルティングや教育指導を行なっている。ここ数年は「一億総伊能化」をキーワードにみんなで世界地図をつくるOpenStreetMapに熱を上げ、GPS、パノラマ撮影、ドローンを駆使して、地図を作るためにフィールドを駆け巡っている。

【災害ドローン救援隊DRONE BIRD紹介ムービー】
https://www.youtube.com/watch?v=Vu6a3DXZ1IM&feature=youtu.be

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