「お祭り」を活用した新しい地域創生ビジネスとは
祭りが抱える課題への取り組み
しかし、次のような理由から日本の祭りを取り巻く環境は年々深刻化していると山本さんは教えてくれた。
① ヒト…少子高齢化による担い手不足
② モノ…マンネリ化で集客力が低下。昔は唯一の娯楽だったが、現代では相対的に魅力が減ってきている
③ カネ…応援者の減少による資金不足。特に地域の祭りは協賛金が著しく不足している
④ PR…域外での認知度の低さ。また、それを克服できるだけのPRができていない
「こうしたことから祭りの元気がなくなってきており、地域文化やコミュニティが衰退し、地域経済の停滞も起きているケースもあります」と山本さんは話す。オマツリジャパンの試算によると、祭りによる経済波及効果は、1997年の2.5兆円から2016年には1.4兆円にまで減少したというのだ。
「祭りは地域に誘客できるコンテンツであることに間違いはありませんが、青森ねぶた祭りや徳島の阿波踊りといった、日本を代表する祭りでさえも動員数の減少や赤字運営といった課題を抱えているのが現状です」。
その要因としては、祭りの主催者側にお金が落ちるような、祭り自体が稼げる仕組みになっていないことが大きい。一方で、昨今は地方創生関連のプロジェクトが活発化しており、東京オリンピック・パラリンピックやラグビーワールドカップの日本開催の決定、カジノ解禁を柱とした統合型リゾート施設の推進・実施に関するIR関連法案が成立するなど、海外旅行客の増加につながるイベント開催や法整備が相次いでいる。そうした背景もあって、国も祭りをインバウンドの観光資源として活用する方針を掲げており、状況は追い風となっている。そこでオマツリジャパンでは、新たな観光戦略として“稼げる祭り”をつくることに取り組んでいる。
「具体的には、既にある祭りを外国人や地域外の人たちが参加できる体験型のコンテンツに磨き上げていきます。また、その前後に地域内での飲食や宿泊、他の体験型イベントをつなげることで、より多くのお金が地域に落ちるようにしたり、旅行会社と組んで体験型ツアーとして提供するなど、地域に確実に誘客する工夫もおこなっています」。
このようにオマツリジャパンでは、イベント主催者向けに企画のコンサルティングや運営のサポートをおこなうほか、さまざまな自治体と包括連携協定を結び、祭りを活用した年間での観光プロモーションなどもおこなっている。
「自治体以外にも、企業向けに祭りを活用した広告代理店事業も展開しています。これまでは協賛金を払っても提灯やうちわに社名やロゴが印刷されるくらいで、企業にとってのメリットがほとんどない状況でした。でもよく考えてみると、祭りはヒト・モノ・カネが自然と集まる場所。SNSとも非常に相性がいいので、企業のテストマーケティングやサンプリングプロモーション、アンケートなどをおこなったり、特設ブースをつくってPRするといった有意義な使い方が可能です。実際、同様のことを路上で行うよりもはるかに人が集まる上、比較的安価に実施できるということで、参加企業からも費用対効果が高いと人気です」。
これによって従来の協賛金よりも高い額で協賛する企業や新たな協賛企業も増えているといい、祭りの主催者と企業との良好な関係を築くことにも貢献している。
祭りを活用した地域活性モデルの構築に向けて
オマツリジャパンでは、祭り・地域・市場をつなぐプラットフォームを目指し、オフラインだけでなくオンラインの面でもサポートをおこなっている。
「日本には約30万の祭りがあるとお伝えしましたが、今まではそれらの情報がまとまっているものがありませんでした。そこで我々はオンライン事業の一環として、一般参加者向けにお祭りの情報を提供したり、主催者が祭りをより楽に運営できるよう、祭りや祭りの運営にかかわる情報をまとめたwebメディアを運営しています」。
主催者向けには祭りの運営に必要な工程に応じ、関連事業者を紹介するマッチングサービスを提供しているほか、一般客向けにはweb上でフォトコンテストを開催したり、開催情報などを事前に発信したりといった、主にプロモーションをおこなっている。また、月100本程度の祭りの記事を書いて掲載しており、中長期的には多言語展開していくことも考えているという。
最後に山本さんは、日本で唯一の祭り専門会社として、オマツリジャパンが目指す日本の祭りの未来について語ってくれた。
「2020年までの目標として、祭りの“伝統”という側面を海外にしっかり訴求できるようにしたいと思っています。インバウンドのことを考えた時に、日本に祭りを求めて来ている人は、まだ少ないと思います。海外にはブラジルのリオのカーニバルやスペインのトマト祭りのように、その日のためにわざわざ世界中から人がやってくる祭りがたくさんある。僕たちは、日本の祭りでも世界の有名な祭りに負けない熱量を起こさせることはできると思っています。それを実現するために、日本の祭りの“伝統”を海外に向けてきちんと発信・訴求する仕組みを早急につくりたい。インバウンドの需要を取り込んで、祭りを活用した新たな地域活性化のモデルを世の中に浸透させていきたいと思っています」。
山本さんのトーク終了後には、クロストークがおこなわれたほか、会場からの質問も上がった。今後の祭りの可能性についてそれぞれが思いを巡らせ、今回のイベントは終了した。
<Mar.2019 鈴木 潤子(WAO事務局)>
「お祭り」を活用した新しい地域創生ビジネスとは
山本陽平
株式会社オマツリジャパン 共同代表 取締役
1986年生まれ。立命館大学 国際関係学部卒業。
09年NTT東日本株式会社にて、中小企業向けの通信ネットワーク設計のSE業務に従事し、その後通信制度の海外調査や通信インフラの接続ルールに関する総務省や通信事業者との渉外業務、途上国を中心とした海外での通信インフラビジネスの新規事業立ち上げや事業計画策定・経営管理等の業務に従事。現在はオマツリジャパンで「毎日祭日」を信念にプロデュース、ツアー、プラットフォームの事業拡大に奮闘中。学生時代からバックパッカーで世界約80カ国の祭を巡り、毎週末お祭りに参加しているお祭り男。
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