EVENT REPORT

Jan 2020

いま、地域に求められる「らしさ」

地域の独自性や特色を生かし全国各地でおこなわれている地域ブランディング。しかし、情報化社会の中で均質化しがちな地域の個性を再考し、差別化された価値を伝えていくことは容易ではない。

今回のWAOでは、地域が持つ価値の表現を探るため、その土地に根差す本質を見極め、ロングライフデザインをテーマに活動を続けるD&DEPARTMENT PROJECT 代表取締役の相馬夕輝さんをお招きし、イベントを開催した。

デザイン会社が“地域”に目を向けた理由

デザイン会社が“地域”に目を向けた理由

デザイン会社が“地域”に目を向けた理由

1997年にデザイン会社として始まったD&DEPARTMENT。

当時“デザイン”というキーワードが浸透する一方で、大量消費の社会の中でデザインをするということは、よいデザインを作り出してしても翌日にはごみになる現実を目の当たりにすることだった。そんな状況に疑問を持ち、デザインの価値自体を見つめなおしたいという考えから、創業者の1人、ナガオカケンメイさんは全国のリサイクルショップを巡り始めた。

リサイクルショップには、不要になってしまったために破格の値段で販売されている優れたデザインのプロダクトが多数存在していた。新品でも使われなくなれば翌日には商品の値段が急落するのは価値がきちんと伝わっていないからだと考え、その商品の価値をきちんと伝える場として、D&DEPARTMENTというリサイクルを中心としたショップをスタートした。

ショップの運営を通して、次第に人気のある商品の共通点を見つけることになる。その共通点とは、企業の創業当時の“原点”が伝わる商品だったと相馬さんは当時を振り返る。

「企業の原点ともいえるような商品を僕らが販売すると、“懐かしい”という反応もあれば“新しい”という反応もありました。メーカーとしては既存の流通や売り方では売れなくなっているけれど、僕たちが価値を見つめなおして、リサイクルとして売ると非常に反応が良くなる。このギャップをうまく利用して、企業の原点から『らしさ』を見つめなおし、復刻という形でマーケットに売っていきました」。

その後も企業の「らしさ」を考えるプロジェクトを続けていくD&DEPARTMENT。そして、地域に目を向けることになったのが、三重県の窯業試験場の方からいわれた「原点から企業の『らしさ』を見つけていくことは、地域にもあてはまるじゃないですか」という言葉だった。

この言葉をきっかけに相馬さんたちは、全国各地でその土地に長く続く伝統工芸や産業を巡ることとなる。

地域を編集する「d design travel」の出発点

地域を編集する「d design travel」の出発点

D&DEPARTMENTは、全国を巡る中で得たものを発信するため「NIPPON VISION」という展覧会を開き、47都道府県から集めた品物の展示と販売を東京でおこなった。

販売するものは、実際に足を運んで一つひとつ選んでいく。しかし、地域では良いものに効率よく出会えず、生活者の目線で一堂に見える場がないことを課題に感じた。

その課題解決のために、D&DEPARTMENTは全国で地域の良いものに出会える自社ショップを、開設。そして、地域ごとにショップを編集し、運営する中で気づいたのが、産業と観光が結びついているということだった。

「観光で訪れた人が、お土産に地域の品物を買っていく。観光自体がどう正しく消費されるバランスを持つかというのは、作る環境をどう整えるかに密接につながっているということを肌身に感じていたので、その循環が緩やかにつながり続ける観光を、ガイドブックを通して伝えていこうと考えました」。

こうして、1冊につき1都道府県を特集する観光ガイドブック「d design travel」のプロジェクトが始まった。

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いま、地域に求められる「らしさ」

相馬夕輝

D&DEPARTMENT PROJECT
代表取締役社長・ディレクター

1980年滋賀県生まれ。2003年よりD&DEPARTMENT PROJECTに参加。大阪店、東京店の店長を 経て2009年より代表取締役社長に就任。「ロングライフデザイン」をテーマに、47都道府県に1か所ずつ、デザインの道の駅「D&DEPARTMENT」をつくりながら、観光ガイドブック『d design travel』刊行の他、ミュージアム・ストア・食堂を連動させた「d47」を渋谷ヒカリエに展開するなど、物販・飲食・出版・観光を通して、47の「個性」と「息の長い、その土地らしいデザイン」を見直し、発掘、紹介する活動を行う。担当する飲食部門では、日本各地を取材し、その土地の食材や食文化を活かしたメニュー開発や、イベント企画などを手がける。

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