文系でも分かる!AIの最新動向
今日から使える!AI実践
最先端のAI研究と実装
続いて、AIに関する最近のトピックスを教えていただいた。
【強化学習】
対象分野は、ロボット、ゲーム、自動運転などをするAI。eスポーツでプロと同等の結果を出すAIが登場している。今後、シミュレーションと現実の融合へ向かい、話題のメタバースともつながることで、現実とコンピュータの世界の間をシームレスにつないでいく状況が生まれてくる。
「『Nature』に、核融合を制御できるAIをつくった記事が出ました。核融合(物理)をシミュレーションする機械をつくり、ひたすら学習してその結果を現実世界に戻すというシステムです。機械学習の一つである強化学習でリアルとメタを繋いでいます。我々が取り組んでいる事例では、ロボットによる手術サポートAIが近い例として挙げられます。繊細な操作が要求されるリアルな世界のロボット手術をメタな世界のAIがサポートすることで、より良好な結果が得られる世界を目指しています。」。
【自然言語処理】
対象分野は翻訳、テキスト分類、チャットボットなど。
「2017年に『Transformer』という技術が現れ、様々なタスクの精度が上がりました。とくに長文を流暢に翻訳できるようになっています。機械学習を用いた翻訳では、いわゆる辞書はまったく持たずに、ひたすら例文の対訳例を学習させて、翻訳するという仕組みが利用されています」。
さらに、自然言語処理の応用はプログラミングの領域にも及び、主要なプログラムの骨格を人間が書くと、のこりをAIが書いてくれる機能が登場している。プログラミングも、人間が書いたものを計算機が補完し、最後に人間が調整する未来が目の前にきているという。
【異種混合学習】
「最近、異なる分野のデータを統合し、解析することが流行しています。例えば、写真を見せたら、その写真の説明文がでてくるというもの。また、逆に文章を打ち込むと、文章が示す画像を生成するというものもあります。今後、映画や写真、絵などに、半自動で字幕や翻訳を出すことが可能になります。目が見えない人に音声を提供する、耳が聞こえない人に文字を提示するなど、たくさんの人に状況を伝えることができるようになります」。
【創薬分野へのAI進出】
自然言語処理で培われた技術を基礎に、薬を創ったり、いつ投薬すればよいか?を判断するなどといった応用も拡がってきている。自然言語と創薬は全く異なる分野に思えるが、計算機の上での扱いは非常に似ている。異分野での進化が同時並行的に進むのがAIの特徴だ。
「一見、違う分野に新しい技術ができたのかな、と思いますが、技術(アルゴリズム)は一緒で、データが異なるだけです。データが違うと違ったものに見えてしまうというのが、AIが多様な分野で利用できる理由であり、また、AIの応用面の複雑さを演出しています」。
【今までAIで使われていなかったデータへの拡張】
「2019年から2020年にAIの分野で一番伸びたキーワードに『グラフニューラルネットワーク』があります。数値情報ではなく、人と人との関係に代表されるような関係性をAIで学習しようという分野です。一例として、3次元アニメーション作成の際に使用するメッシュ構造をAIが学習し、風にそよぐ洋服のアニメーションをAIが再現した研究があります。AIが様々なデータの形式に適用されてきています」。
「このように様々なトピックスがありますが、それぞれ繋がりがあります。アルゴリズムとしては、2017年に、『Transformer』が登場し、それが多方面に応用されているという状況を認識していただければいいかなと思います」と瀬々さんは話す。
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瀬々 潤
1976年生まれ。東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(科学)。東京大学助手、お茶の水女子大学・准教授、東京工業大学・准教授、産業技術総合研究所・研究チーム長を歴任。2018年から現職。産業技術総合研究所人工知能研究センター招聘研究員や、東京医科歯科大学 特任教授などを兼務。
専門分野 は、機械学習・数理統計の手法開発および生命科学の大規模データ解析。
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