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Mar 2022

社会インフライノベーションの現在地
デジタルツインとAIが実現するサスティナブルな未来

AIによる組み合わせ最適化

AIによる組み合わせ最適化

AIによる組み合わせ最適化

グリッドの取り組む、AIによる組み合わせ最適化とは、デジタルツインで得意先の業務を再現し、そこにAIを作用させることで実現している。

具体的な事例では、石油元売企業の配船計画をAIによって代替したことが挙げられる。企業の配船業務をデジタル上に再現し、船舶、生産拠点、備蓄拠点を表示、現在の状況を可視化し、需要・生産計画を基に配船計画を実施、現在の需要、生産、船舶状況を基に最適な配船計画を策定した。

こうした配船計画には難しい様々な制約条件が立ち並んでいる。ビジネス上のルール、船のスピード、天候の影響、船の積載量によってどれだけ沈むかといった物理方程式等、80を超える条件がある。これらの条件をデジタルツインシミュレーターに入れ込み、AIが最適な采配をする。組み合わせの数は、10の1000乗通り以上となり、将棋や囲碁よりも複雑な組み合わせの中からAIが最適な一手を出すのだ。

「AIと人が考えることは一緒です。輸送所の安全在庫を下回らないこと、輸送コストを最小化すること、積載率をあげることなどを念頭に、様々な条件のもと配船計画を出します。AIによる配船計画によって、輸送コストの20%の削減が実現しました。元々が膨大なコストなので、削減効果のインパクトは強烈です。また、人が立てた計画よりも在庫管理が安定し、さらに毎日10名程度が丸1日かけていた計画業務を十数分でこなすことができ、業務負荷の削減にも繋がりました。また、燃料コスト下がることでCO2削減にも寄与しています」。

しかし、そうした成果をだすには、かなり泥臭い作業が伴うという。
「まずは、現場の業務ルールを全て洗い出し、言語化する必要があります。AIをつくるのは、トライ&エラーの繰り返しで、一歩一歩AIを成長させていくしかありません。3カ月~1年かけて、何回も要件定義と開発と改修を繰り返していきます」。

こうしてAIは、最適化精度がよくなり、計算時間が短く、配船計画の違和感を小さくする、といった成長をしていく。ちなみに、違和感というのは、現場の担当者が“自分だったらこんな配船計画にしない”ということ、それは、業務ルールを正しく洗い出せていないか、もしくは、担当者の理解を超えたAIが神の一手を打ってきたということだ。

「計画を担当者に評価してもらうのですが、最初は5歳がつくった計画だとレビューをもらいます。次の要件を聞いて、10歳、15歳と繰り返し、ある時に“私くらいになった”と言ってもらえ、そして“私を超えたな、配船効率上がったな”となるんです。どうしてもエンジニアは最適化精度にこだわっているので、初期の段階で神の一手をだしてしまうんですが、信頼関係できていない中で、神の一手をだすと信用してもらえません。我々が心がけているのは、いったん担当者がつくっている配船計画を忠実に再現すること。“俺が育てたAIだ”と思ってもらえるように、デジタルの話と人間系の話を大事にしています」。

社会インフラ領域をターゲットとする理由

社会インフラ領域をターゲットとする理由

さて、グリッドは、なぜ社会インフラ領域に絞って事業を展開しているのだろうか。

「社会実装するためには、業務知識が重要となってきます。そうなると他業種展開するのは難しい。そのため、我々は社会インフラに絞りました。なぜ社会インフラを選んだかというと、社会や子どもたちに貢献したいという想いをもつメンバーが多く、自分たちが気持ちよく取り組める領域だったということです」。

その想いのもと、グリッドはデジタル化促進のために経済効果を追求するということに本気で取り組んでいる。社会インフラの領域は投資規模が非常に大きく、数十億円のコストを抱えていたり、莫大な予算を持っていたりと、業務を改善すると、かなりの変化が起きる。

「我々は、今ある業務をAIに変えるということをやっていて、なくてはならないことをAIでやっています。それに対して、経済価値を提供できるというのが、我々が社会インフラのドメインにいる意味になります」。

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デジタルツインとAIが実現するサスティナブルな未来

照井 一由

株式会社グリッド AI事業本部 取締役本部長
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社にてAI主管部署を立ち上げ、幅広い分野でのAIビジネス活用推進に貢献。
2020年より、社会インフラに特化したAI開発を行うベンチャー、株式会社グリッドのAI事業本部取締役本部長に就任し、世界に先駆けてIndsutrial AI市場の拡大をリード。

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