EVENT REPORT

Dec 2021

ファッション業界のイノベーターに学ぶ サスティナブルな事業経営に必要なこと

厳選した国内の工場と直接提携し、オリジナルの商品をつくり届けている工場直結ファッションブランド『ファクトリエ』。コロナウィルス感染拡大の影響でアパレル業界全体が大打撃を受ける中、ファクトリエは前年を上回る売り上げを維持している。
 今回のWAOでは、ライフスタイルアクセント㈱の山田敏夫氏を迎え、同氏がファクトリエを立ち上げた経緯や想いを伺うとともに、事業において大切なマインドや考え方についてお話しいただくことで、社員一人一人が持つべきサスティナブルな経営的視点や感覚について学んでいく。

工場とのwin-winで日本一流のブランドをつくる

工場とのwin-winで日本一流のブランドをつくる

工場とのwin-winで日本一流のブランドをつくる

山田さんがファッション業界に飛び込んだのは20歳の時。パリに留学した際、空港からパリに向かう途中でスリに遭い、稼ぐために唯一雇用されたのがグッチのストック整理だった。そこで「日本で作られた日本のブランドはないのか?」と聞かれたことをきっかけに、“どんなブランドでも、世界一流は工房からしか生まれない”という価値観に触れ、山田さんは、「日本の一流ブランドを作りたい」と2012年にファクトリエを立ち上げる。しかし、実際に日本の工場をまわったところ、日本のアパレル産業において日本製は3.6%(2012年当時、2020年度は2.1%)ほどしか満たなかった 。つまり斜陽産業に飛び込んだのだ。

「僕たちがいまやっているのは、安く下請けして赤字ばかりになる、工場の負のサイクルを断ち切ること。長く続くには何がベースになるのかが大事。最初の一歩目を、僕らはwin-winの共創にしたからこそサスティナブルな関係となっている」。

現在のアパレル商品の購入軸は主に2つ。「ファッション性(トレンド)」と「経済性(低価格)」だ。ファクトリエは、そこに第三の判断軸「ストーリー」に光をあて、新しい市場をつくろうとしている。その「ストーリー」の一つとなるのが「作り手」だ。ファクトリエは、商社やメーカーを通さずに直接消費者に商品を届け、顧客と作り手が交流できるようにした。また、今までは表に出ることのなかった工場名をブランドとして打ち出すことで、工場はみるみるモノづくりのプライドを取り戻していったのだ。

win-winの仕組みはもう一つ。工場が価格決定権をもつことだ。そうすることで、工場は原価設定にとらわれずいいものを作り始めるという。
「従来のアパレルの原価率は20%のところ、ファクトリエの取り分は工場と同じ額にすることで原価率を50%としている。例えば原価5,000円で作られたシャツは、従来のアパレルでは定価が25,000円になるところ、ファクトリエでは定価10,000円で買い手もお得に買える。原価率という話だけではなく、お客さまにも喜んでもらえることが一番重要です。そうしたwin-win-winを実現することで、工場の技術がフルに活かせるようになりました。僕らは、日本製にただこだわっているのではなく、日本製には世界に負けない技術力があるから取り組んでいるんです」。

さらに、熊本県あさぎり町にある工場では、自分たちで商品開発を始めた。企画したことも、デッサンやパターンを描いたこともないメンバーも参加しているという。モノづくりの過程は大変な生みの苦しみだが、作った商品が完売すると、メンバーはハイタッチして喜んでいる。

「工場のある小さな町に、毛細血管の先の先までを意識して、熱い血を流すのが重要です。熱い血を流すことができるのは、有名デザイナーや社長ではなく、工場の従業員たち。内側が燃えているとその余熱が伝わっていく。従業員が、やりがいがある、未来があるって思えたら、親族や友達をつれてきて採用もうまくいき、どんどん活性化していくんです」。

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ファッション業界のイノベーターに学ぶ サスティナブルな事業経営に必要なこと

山田 敏夫

1982年熊本県生まれ。大学在学中、フランスへ留学しグッチ・パリ店で勤務。卒業後、ソフトバンク・ヒューマンキャピタル株式会社へ入社。2010年に東京ガールズコレクションの公式通販サイトを運営する株式会社ファッションウォーカー(現:株式会社ファッション・コ・ラボ)へ転職し、社長直轄の事業開発部にて、最先端のファッションビジネスを経験。 2012年1月、ライフスタイルアクセント株式会社を設立し、同年10月に「ファクトリエ」をスタートさせる。経産省「若手デザイナー支援コンソーシアム」発起人、毎日ファッション大賞推薦委員。著書「ものがたりのあるものづくり ファクトリエが起こす『服』革命(日経BP社/2018年)」

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