絵本で深める親子のコミュニケーション
絵本が拡げる子どもの世界
絵本専門士という仕事をご存じだろうか。子どもの読書活動を充実させるために、2014年から開始した独立行政法人国立青少年教育振興機構からの認定資格を持つ、絵本の専門家だ。
美能さんは絵本専門士として、子どもの健やかな育ちを応援するため、幼稚園や保育園、小学校、公民館などに出向いて読み語りの活動をするほか、自宅で小学生向けに読解力を育む読書教室を開いている。また、子どもに絵本を手渡すことになる大人にもその魅力を知ってもらうため、大人向けに読み語りをする活動もしている。
今回は、大人向けのイベントとして、7冊の絵本を選りすぐっていただき、美能さんによる読み語りと、それを聞いて参加者が感じた事を共有するワークをおこなった。
今回選んでいただいた絵本のなかには、美能さんが大人に絵本を読んでいこうと目覚めるきっかけになった絵本がある。3歳の誕生日を迎えたこぐまちゃんの一日を描いた「たんじょうびおめでとう」(わかやまけん・もりひさし・わだよしおみ作 こぐま社)というロングセラー絵本だ。
この絵本が大好きだった美能さんのお子さんは、いつもは遅くまで寝ているのに、ある朝早起きをしたかと思うと、布団の前にちょこんと正座をしてこう言ったという。
「ママ、3歳になったよ、今日からひとりで起きるよ、歯磨きもちゃんとするよ、顔もちゃんと洗えるよ、なんでも一人でできるよ」。
その日はお子さんの3歳の誕生日、絵本の中のこぐまちゃんと同じことを言った事に美能さんは気が付いた。
「息子はずっと3歳になる日を待ち望んでいたんだと思います。私はその時の彼の誇らしげな顔を今でも忘れません。子どもが絵本によって得られる体験のすばらしさを、心に深く感じました」。
子どもと一緒に絵本を読んでいるからこそできる感動的で貴重な体験。それをたくさんの大人に味わってほしいという想いと共に、子ども達のもとに絵本が届けられることを願いながら、美能さんは大人への読み聞かせの活動を続けている。
「大人と子どもでは読み方がまったく異なります。大人は自分の体験に照らし合わせて読みますが、子どもは物語の主人公に同化して読みます。子どもは絵本で疑似体験をすることで想像力を膨らませていくのです。絵本は子どもの心の成長を促すこともあるということを感じていただけるとうれしいです」。
好き嫌いの分かれる絵本。本当の事をいえない女の子がなってしまうのは
今回の読み語りの中で、異色の作品が「ストライプ たいへん!しまもようになっちゃった」(デヴィッド・シャノン文・絵、清水奈緒子訳 らんか社)だ。かわいらしい絵本が並ぶなか、好き嫌いがわかれる絵柄だ。
内容も衝撃的で、周りの目を気にして、大好きなリマ豆を食べるのを我慢している主人公のカミラの体が、ある日突然縞模様になってしまい、親も医師も科学者も誰も彼女を治すことができない…という不安を誘うストーリー。
「日常生活のコミュニケーションのなかで、小さい頃から親に否定されたり意見を押し付けられたりするばかりだと、本当の事を言えないでいたカミラのように、子どもは次第に親に本音を話せなくなると言われています」と美能さんはいう。
参加者からも怖いとの声が多かった絵本で、「ストライプ」のカミラも、言いたいことを言ってもいいように親が育てていれば、縞模様にはならなかった。親の力不足を暗に描く絵本だ。
絵本で深める親子のコミュニケーション
美能 美貴子
国立青少年教育振興機構認定 絵本専門士。子どもたちの健やかな成長を促す絵本の可能性やその活用法を、学校や家庭、地域社会全般に普及させる活動を行う。
絵本の読み聞かせやワークショップをはじめ、「子どもと本の出会い」を深めるために様々な角度から子どもの読書活動推進に力を入れており、ベネッセグリムスクールの講師としても活躍。その他、絵本セラピスト、認定心理士、初級教育カウンセラー資格保有。
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