映画「TSUKIJI WONDERLAND」プロデューサーが語る
何故、私が「築地市場」を映画にしたか
いま、改めて考える「築地」。時代のニーズとともに変わる市場のあり方
築地市場の正式名称は「東京都中央卸売市場築地市場」。東京都には11の卸売市場があり、築地市場では水産物と青果物を取扱っている。水産物の取扱いは世界最大規模だ。
中央卸売市場の役割は、生鮮食品を安定的に集めて消費者に安定的に供給すること。流通が独占的にならないように、卸売市場法が定められ、流通システムが作られている。そのシステムを支えている一つが、産地からレストランやスーパーなど一般消費者が購入する店舗への分荷を担う仲卸の人々だ。
2018年の築地市場の水産仲卸は約540店舗が運営していた。30年ほど前と比べ、店舗数は半数以下に減ってしまった一方で、1店舗当たりの取扱量は増えてきたと手島さんは教えてくれた。
「これは、日本の食文化の変化を非常によく物語っています。昔は家の周りに魚屋さんがありましたが、現在では、大型のチェーン店に変わってきています。大型チェーン店では仕入れ担当が、仲卸から一括で大量に仕入れるので、対応できる仲卸の数が減ってしまいました」。
大型チェーン店が増えて個店が減ったように、食を取り巻く環境はどんどん変化している。いまではおなかが空いたら安くて簡単に食べ物が手に入る便利な時代となった。しかし、手島さんは一方で「美味しいものを美味しいと感じながら食べる瞬間が減っていると感じています。日本本来の季節感を味わう食体験や、誰かとそれを共有しながら楽しむ機会が減ってきているのではないでしょうか」と会場に問いかける。
「私たちは便利で手軽な方についつい流されてしまいますが、気づかないうちに面倒だけどすごく幸せだったことを手放している可能性があります。築地市場は豊洲に移転しましたが、なにを残し、伝承していくか考えないと、かつてあったものがどんどん失われていってしまう。食文化を子どもたちに伝えていかないと、その価値を知らないまま、子どもは大きくなっていきます」。
築地市場が豊洲に移転するいまを一つの節目として、「“いま、築地を知る意義を考える”がこの映画のテーマです」と手島さんは語る。
築地ブランドを支える「目利き」
築地は海外でも非常に知名度が高く、築地の魚に対するあこがれも強い。その「築地ブランド」とは、なにで形成されているのか。
手島さんは映画を製作していくなか、築地ブランドの特長は「信頼」にあると感じたという。
全国から築地に魚が集まってくるのは、築地に持っていけば、正当な値段をつけてくれるという漁師からの絶大な「信頼」があるからだ。そして、その「信頼」を支えているのが、必要な人に必要なものが届けられる、分荷システムにあるという。
「仲卸はよく『目利き』といわれますが、目利きとは、美味しい魚を見分けることではありません。お客さんがどういったものを欲しているか、お客さんの単価設定、どういった調理方法が得意なのか、どういった味を求めているか、そこまで理解したうえで商品を出す人が目利きと言われます。築地市場に集まる数多くの魚種に対して、その判断をできる人たちがいることが世界に類がないことです」。
映画「TSUKIJI WONDERLAND」プロデューサーが語る
何故、私が「築地市場」を映画にしたか
手島 麻依子
松竹株式会社 宣伝プロデューサー。食への興味が高じ2009年頃から築地市場に通い始める。その文化的魅力を国内外に発信したい、との思いから映画製作を決意。資金調達の一環として、クラウドファンディングを実施。1年以上の撮影期間を経て、2016年映画「TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)」を公開。世界各国の映画祭でも上映され反響を呼ぶ。
2018年、”人と映画の物語”を届けるウェブメディア「PINTSCOPE(ピントスコープ)」を立ち上げ、新たな映画との出会いを届けるプロジェクトを実行中。
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