EVENT REPORT

Nov 2019

観光産業で日本を元気に
~スケーラブルな事業のつくり方~

インバウンドにおける日本側の課題

ところが、こうした日本と諸外国両者の観光ニーズの高まりに反して、いまだ日本には多くの観光の課題がある。訪日外国人の日本観光における不満の第1位は、“フリーWi-Fiをはじめとした無料の通信環境が少ない”というものだった。

WAmazingはこの課題に着目。事前にWAmazingのアプリをダウンロードしてアカウント登録をした外国人旅行者に対し、日本国内のインターネット回線が500MB使えるSIMカードを無料で配布するサービスを開始した。

「日本は島国なので、インバウンドの経路は97%が空港経由、3%が海港経由です。初めは主要空港でのSIMカード配布から始め、今では訪日外国人の9割以上をカバーできるまでになりました」。

SIMカードを受け取った旅行者は、到着後すぐにインターネットで情報収集はもちろん、旅前にはWAmazingから提供される交通パスや宿泊施設、観光施設などの情報をもとに事前リサーチやプランニング、手配・決済も可能だ。こうしたワンストップのサービスを提供することで訪日外国人の抱える課題を一つ一つ解決し、日本のすみずみまで楽しんでもらうためのプラットフォームを提供しているのだ。

「地道に地域の魅力を集めて、「モノ・コト」の情報を発信して地域活性に寄与するとともに、日本を訪れた外国人にAmazingな体験を提供したいと思っています」。

“観光”は空洞化しない

“観光”は空洞化しない

加藤さんが生まれ育った横須賀市は年々人口が減少しており、昨年41年ぶりに40万人を下回った。今後さらに減り続けるという予測もあるなかで、加藤さんは次のように語った。

「横須賀は好きですが、私はいま住んでいませんし、もしかしたら今後ずっと戻らないかもしれません。その理由は、そこに仕事が少ないからです。このように”地域に仕事がなく、暮らしを成り立たせることができないからそこで暮らせない”という根本的な問題を多くの地域が抱えているのです」。

戦後の日本は製造業によって高度経済成長を成し遂げたが、より安い賃金を求めて製造拠点がアジアに向かう流れが広がると、国内の製造業は空洞化して工場が閉鎖し、その地域の人々がそこで暮らしていけなくなるという現象が起きてしまった。

「その点観光業は製造業と異なり、その地域にある観光資源を別の場所に持っていくことはできないので、人の方が動いてその地域を訪れなければなりません。さらにそこにサービスが生まれることで地域に必ず雇用が生まれるため、空洞化しないスケーラブルな産業だといえます。経済や産業が発展していくにしたがって、第1次産業から第2次産業、第3次産業へと就業人口の比率が移行するというペティークラーク法則がありますが、日本は産業従事者の7割が3次産業で圧倒的な割合を占めています。ただ一方で、経済界を中心に製造業で高度経済成長を達成したんだという成功体験の記憶も大きく、現在も日本企業の売り上げ高1位はトヨタ自動車です。でも世界に目を向けると、現在トップを占めるGAFAはすべて3次産業のサービス業。産業構造が移り変わる中で、日本はこれまでなかなか第3次産業での成功体験を積めなかったのかもしれませんが、今こそ“観光”を通じて成功体験を積み、地域を、そしてひいては日本全体を支えていくことができるのではと思っています」。


<Nov.2019 河村 茉衣子(WAO事務局)>

1

2

観光産業で日本を元気に
~スケーラブルな事業のつくり方~

加藤 史子

WAmazing株式会社 代表取締役社長・CEO

慶應義塾大学環境情報学部(SFC)卒業後、1998年に(株)リクルート入社。 「じゃらんnet」の立ち上げ、「ホットペッパーグルメ」の立ち上げなど、主にネットの新規事業開発を担当した後、観光による地域活性を行う「じゃらんリサーチセンター」に異動。 スノーレジャーの再興をめざし「雪マジ!19」を立ち上げ。 その後、仲間とともに「Jマジ!」「ゴルマジ!」「お湯マジ!」「つりマジ!」…など「マジ☆部」を展開。 国・県の観光関連有識者委員や、執筆・講演・研究活動を行ってきたが、「もう1度、本気のスケーラブルな事業で、日本の地域と観光産業に貢献する!」を目的に、2016年7月、WAmazingを創業。

OTHER ARTICLE

このカテゴリの他の記事

今のAIと向き合い、未来の可能性を知る

REPORT

今のAIと向き合い、未来の可能性を知る

落語家に学ぶ、人を惹きつけるコミュニケーションの極意

REPORT

落語家に学ぶ、人を惹きつけるコミュニケーションの極意

~現代美術家と考える~これからの「アート市場」

REPORT

~現代美術家と考える~これからの「アート市場」