EVENT REPORT

Nov 2019

民間企業による宇宙への挑戦
~宇宙資源開発ビジネスの概況とispaceの取組み~

かつては国家事業として、莫大な費用と長い時間をかけて取り組まれていた宇宙事業。しかしここ最近は、民間企業がこの分野に参画することでブレークスルーがいくつも生まれ、イノベーションが加速している。

今回のWAOでは、宇宙事業において民間企業になにができるかを考えるため、宇宙資源開発に取り組んでいる株式会社ispace のCOOである中村貴裕さんをお招きし、宇宙事業の概況を知るとともに、新たな分野に挑戦する上で必要となるマインドや考え方のヒントを探った。

月を生活圏に取り込むことで生まれる経済的合理性

月を生活圏に取り込むことで生まれる経済的合理性

月を生活圏に取り込むことで生まれる経済的合理性

“Expand our planet, expand our future. (人類の生活圏を宇宙に広げ、人類の未来をより豊かにする)”をビジョンに掲げるispace。ispaceでは、月を地球の経済・生活圏に取り込むことを目指し、まずは2040年に1,000人が月面に滞在し、年間1万人が月面旅行をするという数値目標を設定している。

ispace のCOO、中村さん曰く、この“1,000人滞在し、年間1万人が訪れる”というのは、ちょうど現在の南極と同程度の規模だという。

「私たちは経済的合理性のもとに月面に経済圏を築き、経済を回していく仕組みをつくっていきたいと考えています。皆さんは月の極域に約60億トンの水があることはご存知でしょうか。氷は水素と酸素に分解することで、ロケットや人工衛星のエネルギーにすることができます。この月面の資源を利用して宇宙の輸送体系を大きく変えるべく、月面にガスステーションをつくることが我々の中長期的なビジョンです」。

この計画は、宇宙空間での輸送において既に高いニーズが見込まれている。

たとえば人工衛星の寿命は約15年。約7割は燃料切れが原因で、燃料が尽きた人工衛星は地球に落ちるか軌道を外れて宇宙空間に飛んでいく。途中で燃料の補給をすることができれば人工衛星の寿命を延ばすことができるため、衛星事業者や政府にとっては新たに一から人工衛星をつくって打ち上げるよりも、リスク面やコスト面において非常に大きな価値がある。その際、地球から燃料を運んで補給することも可能だが、ここに経済合理性のポイントがあるという。

「地球と月は38万km、地球と衛星軌道は3万5千kmの距離にあり、その差は10倍以上。しかし地球から衛星軌道にものを運ぶ輸送コストに比べ、月から地球の衛星軌道への輸送コストはおよそ100分の1で済みます。これは月に大気がないことや重力が地球の6分の1しかないことなどが影響し、宇宙に出るのに要するエネルギーが36分の1で済むことが主な要因です。月にあるエネルギー資源を利用できれば、火星を目指す場合も月を経由して燃料を補給して向かうことができて、地球から直接火星を目指すよりも10分の1程度の費用で済みます。いまや月を輸送のハブとして活用するという考えは、グローバルな宇宙開発マーケットでは主流になりつつあるのです」。

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民間企業による宇宙への挑戦
~宇宙資源開発ビジネスの概況とispaceの取組み~

中村 貴裕 氏

株式会社ispace 取締役/COO

1980年生まれ。東京大学大学院で惑星科学を修了後、大手外資系コンサルティング会社に就職。コンサルタントとして6年間活躍した後、大手情報サービス会社に転職し、新規事業開発を担当。2015年2月、世界初の民間による月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」に日本から唯一挑戦しているチーム「HAKUTO」を手掛ける株式会社ispaceに参画。
株式会社ispace:https://ispace-inc.com/

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