獣害被害をビジネスに変える
“生産者への感謝と食材の追求”に向き合う
東京・天王洲にある人気ジビエ料理レストラン「SOHOLM」で運営を任されている河合さんは、自らも生産者の想いを知るため狩猟免許を取得。また、河合さんは飲食店の運営だけではなく、“地域の良いものをアーカイブし伝えていきたい”という想いのもと全国各地を飛び回り、地方創生や食文化の発掘・開拓にも積極的に取り組んでいる。
自ら地域へと足を運び、様々な活動をおこなう河合さんだが、その一つのきっかけとなったのは、三重県津市美杉町で見た獣害被害にあう農家の現状だったと話す。
「3年前、シカの肉を求めて三重県の津市美杉町にいきました。そのときに獣害被害という現場を改めて目の当たりにしました。美杉町は他の地方同様に高齢化が進んでいる町です。そうしたなか、生きるために農家を営むおじいちゃん、おばあちゃんがつくった野菜がシカやイノシシによって大きな被害を受けていたんです。日本人は、そもそも狩猟肉を食べて生活を営んできました。しかし時代の流れとともに、肉は効率よく飼育され始め、イノシシが豚になり、牛や鳥を食べることが主流になっていきました。もちろん、これは悪いことではないと思います。ただ、狩猟肉に必要な猟師は減り、加工などの技術は衰退していくとともに、狩猟肉の文化も衰退していきました。そして、そのような食文化の衰退は僕たちの命を支える食の生産者にも影響を及ぼしているのも事実です。その現実を目の当たりにしたことによって、僕は東京でレストランを運営しているだけでなく、こういった課題に対しても、いままで以上に真剣に向き合っていかなければと感じ、地域の生産現場にも頻繁に足を運ぶようになりました」。
河合さんはこうした経験から、“生産者への感謝と食材の追求”のため、自ら狩猟免許を持ち、地域生産者との密接した関係をつくり上げていく活動を活発化させていった。そして、その活動によって「ジビエ=狩猟肉文化」というそのものを日本の食文化として取り戻し、狩猟肉文化の豊かさと美味しさをお客様にしっかりと伝えていくレストランを目指していくこととなる。
しかし、ジビエを食文化として定着させていくことは簡単なことではない。現に、獣害被害の抑制のため、年間何万頭と捕獲されているシカやイノシシだが、そのうち食肉として利用されるのはわずか数%のみだという。
「ジビエを広めていこうと思っていても幾つかの課題はあります。猟師の減少はもちろんですが、それだけではありません。狩猟肉は時期によって個体差があり、獲れたとしても、直ぐに適切な方法で加工処理をしなければ、安全な食肉としての流通はできません。食肉として利用していくためには、こうした加工技術や設備、管理方法などが地域差なく整っていかないことには、急激に増やすことは難しいのが現状です」
現状を理解しながらも河合さんは、まずは自分たちができることを一つひとつ進めていこうと、会社や仲間たちと一緒に狩猟肉文化を取り戻すべく取り組みをおこなっている。
イベントで紹介してくれた河合さんたちの取り組みを紹介しよう。
獣害被害をビジネスに変える
河合祥太
株式会社アクタス 飲食開発責任者(レストランSOHOLM運営責任者)。大手外食チェーンのエリアマネージャーを経て、2014年にアクタスが飲食事業部を立ち上げる際に入社。現在はアクタスが運営する東京・天王洲のレストラン「SOHOLM」の運営をはじめ、地方と共同でつくるジビエの缶詰や、スモークオイルの開発など、他にない商品を企画する。日本各地の食の産地を飛び回り、地方創生や食文化の発掘、開拓にも積極的に取り組む。
SOHOLM(http://www.soholm.jp)
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