SDGs達成に向けて
~官民連携でつくる社会環境~
これからの木材利用
次に長野さんは、農林水産省林野庁が推進している“ウッド・チェンジ活動”について教えてくれた。これからの木材利用を考え、社会全体で森林の保護と適切な活用を推進しようという取り組みだ。
「日本は森林が国土の7割という森林大国であり、この森林を健全に保つということは都市の住民の皆さんにも非常に大きな影響があります。森林が持続的に共有されることでSDGsの17の目標のうち14個を達成できるという国連食糧農業機関の見解があるほどです」。
森林を健全に保ち、持続的に共有するとはどういうことだろうか。長野さんは、木材をあますところなく適切に利用することが必要だという。
「日本の人工林の蓄積は半世紀で6倍増加しており、50年経てば木材として活用できる時期になるので、これらの木を使い、新たに若い森林を増やすことが必要になってきているのですが、木材利用の需要が不足しており植え変えられていないのが現状です。ウッド・チェンジ活動では、林野庁が、林業関係者だけではなく様々な事業者へのアプローチやネットワーク作りをおこなって、森林資源のフル活用を目指しています。国産材の利用が高まれば山村地域に林業の需要が増えるので、林業の活性化、地方創生への貢献という、林野庁の課題にも直結します」。
そのほかにもフードロスと同様、関係するそれぞれの事業者が前向きに取り組むことはもちろん、業界全体での活動や法整備による支援、個人レベルの活動まで、できることは様々あるという。
「今まで木材が一番多く使われてきたのは住宅です。ただ、人口減少に伴い住宅需要は減少すると分かっていますし、そもそも半分は外国産の木材が使われています。そのため、国産材への代替や、住宅以外のいままで木造ではなかった建築物に木材を使用していくことを推進しています。木材は鉄骨よりも軽量なので、工期短縮と人件費抑制を見込めるというメリットもあります。最近では、コンクリートよりも軽く中高層建築に使える強度もある製品(CLT:直交集成板)も開発されています。制度としても、今年の6月から建築基準法が改正され、木を使いやすいように変わってきています。国会や知事会でも木材を使おうという動きが始まってきているほか、色々な人たちがネットワークでつながることで木材利用が具現化しています。たとえば宮崎県と川崎市が連携して川崎市の建物に宮崎県の木を使う“崎-崎モデル”という取り組みや、農林中金が構造材・内装材としての木材の利用促進と理解深化を目指してデザイナー向けに木の内装の魅力を紹介する活動などもあります」。
他にも民間企業の事例として間伐材を活用した飲料容器「カートカン」や木のストローなどがあるほか、オリンピック関連で木材を使ってランニングスタジアムをつくったり、銀行のおもてなし空間や病院の内装で木材を利用したりといった、様々な取り組みが実践されている。
林野庁では、こうした取組みを通して木材を利用することの意義を知っていただき、暮らしの中に木材製品を取り入れることで、日本の森林を育てていく運動を「木づかい運動」と名付け推進している。
「“木づかい運動”を広げたいと思っていて、10月8日が十と八で木の日なので、10月は木づかい推進月間としています。ウッドデザイン賞も今年で5回目を迎えています。木を使う取り組みやプロモーションなどがあればぜひ応募してください」。
森林は、日本にある大きな再生可能な資源だ。森林をうまく使い、持続可能なサイクルを構築することができれば、森林も都会も地方も元気になる。官も民も個人も、それぞれの立場で積極的に取り組むことが必要だ。
SDGs達成に向けて
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長野 麻子
農林水産省 林野庁 林政部 木材利用課長
1994年東京大学文学部フランス文学科卒業後、農林水産省入省。バイオマスをカスケード利用する国家戦略策定に携わった後、(株)電通に出向してソーシャルビジネスの企画、食料産業局食品産業環境対策室長としてフードロス削減に向けた国民運動を手がけるなどして、2018年7月から林野庁木材利用課長に。公共建築への木材利用、木づかい運動、木材輸出など木材需要の拡大に向けて全国営業中。
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