企業と学生のコラボにより生まれる新しい市場価値
中高生が創造力を評価される場をつくりたい
日本の中高生が自分のことをどう感じているかに関する興味深い調査結果がある。
アドビシステムズ社が世界のZ世代(12歳から18歳までの生徒)を対象に行った調査によると、自分のことを「創造的」だと思う日本のZ世代は8%と、グローバル平均の44%に比べ、非常に低い結果となった。
「本当に日本の中高生は創造力が低いのでしょうか。彼らがこう回答するのは、中高生のときに創造力が評価される機会がないからではないでしょうか。勉強やスポーツについては評価されるけれど、モノを作れたり、新しいことができたりすることへの評価軸はありません。もし、創造力の判断軸を生み出すことができたら文化が変わるかもしれません。実は自分には創造力があるのかもしれないと、気づけるかもしれません。そこで、創造力の甲子園として、『Mono-Coto Innovation』を創設しました」。
今年で4年目となる「Mono-Coto Innovation」は、協賛企業からテーマを出してもらい、全国から集まった学校もバラバラの約300人の中高生が、4人1チームとなってアイデア考案し、プロトタイプ検証も行うプロジェクトだ。夏休みに5日間の合宿形式で行われる予選と、協賛企業と一緒にプロトタイプ制作・検証をくり返しながらアイデアの精度を高めた後に行われる本選で、中高生たちはアイデアを競う。
うまくいくチームとうまくいかないチームの差はどこにあるのか?
Mono-Coto Innovationを4年間運営して、西山さん自身も3つの気づきがあったという。
1つめの気づきは、「うまくいくチームとうまくいかないチームの差」だ。最初、性格の組み合わせが重要ではないかと考え、性格を16分類までして比較してみたが、ほぼ関係はなかった。2018年度はチームの様子を観察する人を投入して、ひたすらチームの状況を観察してみたという。
そこで、チーム内で議論が活発にできていて、アイデアが徐々にブラッシュアップされている好循環が生まれるためには、3つの要素が重要だと分かったという。
「1つめの要素は、お互いの信頼関係ができていることです。素直に思ったことや疑問に感じたことを言えることや、発言した相手を否定しないことが大事です」。
信頼関係を築く際にポイントとなるのが、ワーク以外の時間における雑談だという。そのため、ワーク外で雑談できる時間を入れ込むように、プログラムを組む上で工夫している。
「2つめの要素は、チームとして次に何をすべきか、プロセスに対する理解ができている事です。特に、過去参加者の存在が大きいです」。
過去の参加者や学校でデザイン思考を学んだ経験者がいるチームの割合は、参加全チームでは、50チーム中25チームだが、代表に選ばれたチームに限ると、5チーム中4チームと割合が大きくなる。
「3つめの要素は、合意形成によるプロセスの高速化です」。
自分たちの議論が現在どのステップにあるのかを客観的に捉られるチームや、抽象度の高いことを具体的にして合意形成を進められるチームは、非常に早く議論が進んでいたという。
ファシリテーションを行う側も得られる学び
2つめの気づきは、「ファシリテーションをおこなうことによって得られるメタ的な学び」だ。Mono-Coto Innovationでは、協賛企業の社員もファシリテーションの研修として参加している。実際の現場ではいろいろな事件が起こる。まったくアイデアが出ないチームに入って論点を整理したり、意見が対立するチームでは意見の背景にある思いを聞き出し合意できる方向を探ったり、雰囲気の悪いチームではプライベート面も含めてケアをしたりと、ファシリテーターの果たす役割は大きい。
「参加した方のアンケートでも、“普段プレーヤーとして仕事をしている方が、全体を俯瞰して捉えられるようになった”、“仕事でデザイン思考を何気なく使っている方が、改めてデザイン思考の内容を理解できた”との回答があり、ファシリテーターとして参加することで、企業の側もプロセスやチームマネジメントに対するメタ的な学びが多いことに気づきました」。
企業と学生のコラボにより生まれる新しい市場価値
西山 恵太
株式会社 Curio School 代表取締役。京都大学経営管理大学院卒。大学時代は製品デザインを学び、前職は経営コンサルタントとしてデザイン思考を活用した新規事業開発・新製品開発プロジェクトに従事。2015年より子どもたちの創造力を育むCurio Schoolを設立。
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