EVENT REPORT

Mar 2018

一億総メディア化時代における放送の未来とは

マスメディアが扱わない貴重な情報

「8bit News」で取り上げられるニュースはさまざまだ。地域の小さな活動から政治や社会課題、ときには企業の内部告発の投稿など多岐にわたる。特に、2016年に起きた熊本地震のときは、現場から数多くの情報が寄せられたという。しかし、その数多くの情報の正確性を短い期間で検証することは難しい。そこで堀さんは、「情報の正確性を立証するには発信者から映像を送ってもらうことが一番早い」と、自身のSNSのIDを公開し、直接、映像を送ってもらう行動をとった。

「SNSのIDを公開したことで、“いまどこで救助を待っています”、“この避難所には物資が届いていません”などの情報が映像とともに多く届きました。そして、その映像をもとに現場に向かい、情報の正確性を確かめ『8bitNews』で発信していきました。SNSの普及や映像圧縮などの技術が進化したといっても、情報の信憑性を確かめるには限界があります。やはり最後は自分の足で確かめることは重要となります」。

堀さんのもとには、地震発生から数日が経っても多くの情報が届いた。一緒に避難ができなかったペットの問題や避難所格差の問題、車中泊でエコノミー症候群が問題となったときはブルーシートで簡易テントをつくることで車中泊をしなくてもすむアイデアなど送られてきた。こうしたマスメディアが放送していない情報こそが貴重だと堀さんはいう。

「マスメディアは大きな被害のあった場所に取材が集中します。ただ、それ以外の報道されない現場の課題は共有されないままです。これは市民発信が良いか、マスメディア発信が良いかの比較の問題ではありません。マスメディアが発信する情報も大事であり、その一方で、マスメディアが報道しない市民発信の“いま起きている課題”も、これからの教訓として保管していくことも大事なんです」。

熊本地震の経験をもとに堀さんは、一般市民も情報発信のスキルを備え、マスメディア側でも一般市民の情報を接続できる場を持っていくことが重要であるということを改めて確信したと話す。

「マスメディアでは伝えていないが、現場に目を向けると伝えるべく、伝えてほしい情報というのはたくさんあるわけです。そのハブとなる活動を『8bitNews』はおこなっています」。

社会課題解決に向けた挑戦者を支援する

社会課題解決に向けた挑戦者を支援する

社会課題解決に向けた挑戦者を支援する

さらに堀さんは2017年に、社会問題の解決に取り組む団体の発信支援サイト「GARDEN」を開設。「GARDEN」には堀さんたちが取材したNPOやNGOのレポートが掲載され、それを見た人は「寄付したい」・「取材したい」・「参加したい」・「共感する」といった4つのアイコンをクリックすることで支援ができる仕組みだ。

「子どもたちの貧困支援や発達障害支援、LGBTの啓蒙など、こうした社会問題の解決のために、日頃から現場で奮闘しているNPOやNGOの活動ってあまり知られていないですよね。そうした活動が埋もれていかないためには支援や共感が絶対に必要と思い、僕たちは『GARDEN』というサイトを立ち上げました」。

また、「GARDEN」では、NPO、NGOの活動を伝える人として「Garden ジャーナリスト」を設置。「Garden ジャーナリスト」に参加する有識者の分野は学者や放送作家、社会企業家、弁護士、芸人など幅広い。こうした「Garden ジャーナリスト」の協力は発信力の質を高め、企業や他団体とのコラボレーションのきっかけにもつながっていると堀さんは話す。

1

2

3

一億総メディア化時代における放送の未来とは

堀 潤

1977年、兵庫県生まれ。NPO法人「8bit News」代表。立教大学/文学部ドイツ文学科/卒業。2001年、アナウンサーとしてNHKに入局。岡山放送局、東京アナウンス室を経て、2013 年4月フリーに。現在は「モーニングCROSS」(TOKYOMX)キャスター、「JAM THE WORLD」(J-WAVE)ナビゲーターを務めるなどレギュラー多数、「毎日新聞」、雑誌「VERY」、「anan」他で連載を持つなど幅広く活動中。

OTHER ARTICLE

このカテゴリの他の記事

既成概念にとらわれない新事業のつくり方

REPORT

既成概念にとらわれない新事業のつくり方

翻訳しても届かない?
伝わる外国人向けメディア戦略

REPORT

翻訳しても届かない? 伝わる外国人向けメディア戦略

社会インフライノベーションの現在地
デジタルツインとAIが実現するサスティナブルな未来

REPORT

社会インフライノベーションの現在地 デジタルツインとAIが実現するサスティナブルな未来