今のAIと向き合い、未来の可能性を知る
第3次AIブームの可能性
AIの活用はいまに始まったことではない。1950年代後半~60年代の第1次AIブーム、80年代の第2次AIブームを経て、現在は第3次AIブームといわれている。
「1次・2次のAIブームについては、人間が持つ知識をルール化して、コンピューターに覚えさせることで現実社会でもAIの技術が活躍することを期待しました。しかし、どの時代も人がルールや知識を記述して、コンピューターに覚えさせるという行為自体に労力とコストがかかってしまい下火となってしまいました。現在、起きている第3次AIブームは従来のブームとは違い、様々な技術の発展とともに、機械学習や深層学習であるディープラーニングが活用できる時代となっています。こうした変化は従来の労力を抑えられるだけでなく、精度においても格段に向上し、AIの活用にブレイクスルーを起こしています」。
進歩を遂げるAIではあるが、第3次と呼ばれる現在において、AIが可能とする範囲はどこまでなのだろうか。中林さんは、東京大学で人工知能を研究する松尾豊准教授が提唱する人口知能の4段階のレベルをもとに、現在のAIが可能とすることを説明してくれた。
レベル1:単純な制御プログラム
「レベル1は、単純な制御プログラムとなります。エアコンの温度設定。一定の温度より高くなったら止まり、一定の温度より低くなったらまた動き出すというレベルです」。
レベル2:対応のパターンが非常に多いもの
「レベル2は、人間がパターンを決めて、あらかじめプログラミングしておくものをいいます。お掃除ロボットの電源がなくなったら充電器に戻るなど、予め人間がプログラムを決めて、それをチップに埋め込んで提供します」。
レベル3:対応パターンを自動的に学習するもの
「この辺りから、機械学習を取り入れ賢くなってきます。あらかじめ人間がプログラムしたパターンでなく、動きながら学習していく。先ほどのお掃除ロボットでいうと、掃除をしながらも、“どこをどう動いたら最も省電力で綺麗に掃除できるのか”をデータから自動的に学習し、判断していくというものです」。
レベル4:対応パターンの学習に使う特徴量も自力で獲得するもの
「ディープラーニングを取り入れ、より高度な分析を自動でおこない、判断能力をあげることのできるレベルです。現在では、自動車の自動運転などもディープラーニングを取り入れ、障害物にぶつからずに進むという研究が盛んにおこなわれています」。
ブレイクスルーを起こしたディープラーニング
レベル3と4を分けるキーワードとなる、ディープラーニングについてさらに解説をいただいた。
「レベル3は、人間が特徴量を定義していきます。簡単にいってしまうと、たとえばリンゴは丸い形をして、黒いヘタがあって、赤いもしくは緑というように人間がリンゴの特徴を機械に教え、それを人口知能が判別するというのがレベル3のAIです。一方、ディープラーニングを活用するレベル4では、なにも教えないでリンゴとリンゴではない画像だけをひたすら機械に見せ続けて(入力)、“これはリンゴだよ”、“これはリンゴではないよ”ということだけ(出力)を教えます。特徴は教えずに画像だけ覚え込ませる。そうすると、数を重ねるごとに機械はリンゴの特徴量を自力で覚えていき、リンゴの判断ができるようになっていきます。つまり、機械が特徴も踏まえて自ら学習するのがディープラーニングです」。
従来、特徴量の抽出は人間がおこなっていたことをディープラーニングでは機械が自動的に抽出していき、入力から出力まで一括しておこなえるようになったことがポイントである。
そして、その名の通り、ディープラーニングでは“深い”モデルを使った学習を機械がおこなっていくことによって、入力と出力の中間に数多くの隠れ層が定義されていく。この隠れ層では、捉えきれないユニットを定義し、処理がおこなわれるブラックボックスの世界が存在するという。
AI活用においての差別化ポイント
そうしたディープラーニングの応用領域として、確実に精度が上がる3つの分野があるという。
「1つ目は、『画像認識』の分野です。この分野の先進的な企業はやはりグーグルです。グーグルの画像認識は精度が高く、現在多くの事業に実装されています。2つ目は『音声認識』の分野です。身近で活用されているSiriを使って実感する方も多いと思います。そして、3つ目の分野が『自然言語処理』です。この分野は、他の2つの分野から比べると難易度が高く、いまだに若干の改善を伴う状況ではあります。ただ、自動翻訳を使われている方は、日々精度があがっていることは実感していると思います。こうした3つの分野がディープラーニングの優位性を発揮できる領域となっています」。
ディープラーニングの活用によって進化するAIであるが、その活用によっての差別化のポイントは“人”にあると中林さんは話す。
「ディープラーニングは、思考の過程に説明力が無いブラックボックスのため、AIを使用して意思決定をおこなおうとしても“なぜ”の説明ができない。そうなると、どんなにAIが優れていようが、最後はやはり使う人の判断が重要となってきます。したがって、AIの活用においては人が保有する、ネットワークやノウハウ、データを学習させる能力ということが差別化のポイントになってきます。私は、AIを活用する本質は“そのデータを使っていかにサービスを向上させていくか?”、“判断していくか?”といった人に関わる部分に、サービスを提供する側の一番の差別化・競争力の源泉があると考えています」。
今のAIと向き合い、未来の可能性を知る
中林紀彦
SOMPOホールディングス(株)デジタル戦略部データ戦略統括チーフ・データサイエンティスト
2002年、日本アイ・ビー・エム株式会社入社。データサイエンティストとして顧客のデータ分析を多方面からサポートし企業の抱えるさまざまな課題をデータやデータ分析の観点から解決する。株式会社オプトホールディング データサイエンスラボの副所長を経て2016年より現職。重要な経営資源となった”データ”をグループ横断で最大限に活用するためのデータ戦略を構築し実行する役割を担う。また2014年4月より、筑波大学大学院の客員准教授としてデータサイエンスに関して企業の即戦力となる人材育成にも従事する。
SOMPOホールディングス(http://www.sompo-hd.com/)
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