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Aug 2018

身近な“不便”や“不満”が事業のきっかけになる

塩崎良子( 株式会社TOKIMEKU JAPAN  代表取締役社長 )

乳がんの発病から治療までの経験をきっかけに、介護・ケア用品ブランド「KISS MY LIFE」を立ち上げた株式会社TOKIMEKU JAPAN、代表取締役社長の塩崎良子さん。

アパレルのバイヤー経験を経て、25歳でアパレル会社を起業。その後も、セレクトショップやドレスのレンタルショップを立ち上げ充実した毎日を送っていた塩崎さん。しかし30代前半に突然の乳がん宣告を受けてから、いつの間にか“自分らしさ”をなくし“患者らしく”生きている自分がいたという。

そんななか塩崎さんは、主治医の先生に、がん患者の方々をモデルにしたファッションショーの企画を頼まれ開催した。そこで、ランウェイをいきいきと歩く患者さんたちの姿に感銘を受けたことをきっかけに“誰もが自分らしく生きられる社会”を目指し、介護・ケアの分野での起業を決意。

現在では、「KISS MY LIFE」の販売も軌道に乗り、ECサイトでの販売だけでなく、省スペースで展開できるキオスク型の店舗を病院内に開設するなど、創業2年目にして活動の幅を広げている。

自身の患者生活を経て気がついた、あるべき世界を実現させたい

KISS MY LIFEの「“病人らしく”より“自分らしく”」というコンセプトはどのように決まったのですか?

(塩崎氏)私自身が患者になって苦痛だったのが、昨日まで当たり前にできていたことができなくなることでした。買い物に行く場所も、着る服も、買えるものも、患者ということだけですごく限定される。初めはそういったことに不満やわだかまりを感じていたんですが、次第に「自分は患者だから仕方ないんだ」って思うようになりました。

病気をして病院にいると、「患者」ということでしかアイデンティティを示せなくなってしまうんですよね。本当は患者である前に、“塩崎良子”という人間のはずなのに、周りも自分もそれをアイデンティティにしてしまうんです。

その状態から抜け出すきっかけが、がん患者さんをモデルにしたファッションショーでした。当時は私もうつ状態だったので、初めは「こんなことして何になるんだろう」と思っていました。でもやってみたら、患者さんたちがみんな笑顔で、すごくキラキラしているのを見て、涙が止まりませんでした。ファッション一つで「こんなに人は変わるんだ」と思いましたし、患者である前に一人の人間として“自分らしく”生きることの重要性を強く感じたんです。ブランドのコンセプトは、この時の気持ちが原点になっています。

本当はもっと自分らしくいていいはずなのに、そうではない現状を変えたいという想いから事業を立ち上げられたのですね

(塩崎氏)そうですね。起業するうえで大事だと思っていることがいくつかあるんですが、その一つに、自分が情熱を注ぎ続けられるかということがあります。それが私にとっては世の中の「不条理なこと」と純粋に自分の「好きなこと」でした。自分が病気になって感じた不条理な現実と、小さい頃からずっと好きだったファッションやお洒落なものを掛け合わせてできあがったのがいまの事業です。

事業を通してやりたいことは、新しい“生き方の提案”

塩崎さんがこの事業を進めていく上で大事にしていることは何ですか?

(塩崎氏)常に「これは本当に必要とされているものなのか」ということをチェックするようにしています。特にこうした社会貢献の意味合いが強い事業は想いが強い分、独りよがりになりがちなので、一つのことを組み立てたら、本当に困っているお客さんがいて、そこにリーチするサービスなのかということを、客観的に考えるようにしています。

それは乳がん発症前に起業した時から意識していたことなのでしょうか?

(塩崎氏)昔は全然していなかったですね。それこそアパレルの仕事をしていた時は、自分のセンスを世の中に対して押しつけているところがありました。わかる人だけ買ってくれればいいという感じでしたね。

それがなぜ現在の考えのように変わったのですか?

それがなぜ現在の考えのように変わったのですか?

(塩崎氏)以前と比べて圧倒的に「拡げていきたい」という想いが強いからだと思います。

患者になったり介護が必要になったりすると、誰に、なにかを言われたわけでなくても、「ごめんなさい」という気持ちで生きてしまって、それがどんどんその人を患者っぽくさせたり、介護される人っぽくしてしまう。でも、“患者”として生きていくことほど苦しいことはないと、私は実感として知っています。だから「KISS MY LIFE」というブランドも、あなたがもともとの自分らしい生き方をした方がずっと豊かになれますよ、という想いを製品に落とし込んでいます。

いまの事業は押しつけではなく、「“患者らしく”よりも“自分らしく”いる、という一つの生き方があってもいいですよね」という、生き方の提案なんですよね。

この考え方がスタンダードになってくれたらいいなと心から思っているので、広めたいという想いはずっとずっと強いですし、自然と患者さんの声を大事にするようになりました。

暗いイメージのある介護・ケアの世界を、もっとポップでメジャーなものに

今後の展望を教えてください

(塩崎氏)あまり注目されていない介護・ケアの領域をメジャーなところに引き上げたいです。その上で、「KISS MY LIFE」を、誰もが知っているブランドにしたいと思っています。

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PROFILE

塩崎良子(株式会社TOKIMEKU JAPAN 代表取締役社長)

株式会社TOKIMEKU JAPAN、代表取締役社長。2006年 アパレル会社を起業。その後、セレクトショップ(中目黒)、リース専門店(目黒)ドレスレンタルショップ(六本木)等、数々のショップを経営。2014年1月、若年性乳がんを発症。その後、闘病に専念のため、会社を閉める。
2015年6月、主治医の提案で、がん患者の為のサイバーズFASHION SHOWを企画、運営。多くのメディアに取り上げられる。2016年7月、株式会社TOKIMEKU JAPAN設立。2017年1月、ケア・介護用品ブランド『KISS MY LIFE』を立ち上げる。

株式会社TOKIMEKU JAPAN(https://www.tokimeku-japan.com/)
KISS MY LIFE オフィシャルECサイト(http://www.kissmylife.jp/)


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