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Apr 2017

イノベーションを創発する「働き方」

酒井穣( 株式会社BOLBOP  代表取締役会長 )

「遊び」がイノベーションに必要なクリエイティビティを生んでいくとは、興味深い話ですね。

(酒井氏)進化生物学の世界では、動物の「遊び」がイノベーションにつながるというのは、常識です。たとえば、仙台周辺のハシボソガラスの事例は有名でしょう。このあたりのハシボソガラスは、クルミを上空から路上に落として、車にそのクルミを割らせるという行動をとります。現在では、驚くことに、赤信号で止まっている車のタイヤの下にクルミを置いて、より効率的に車にクルミを割らせるようなハシボソガラスも出てきています。

この行為はもともと、ハシボソガラスが、上空からクルミなどのモノを落として音が鳴ることを楽しむという「遊び」から生まれたイノベーションです。そのなかで、たまたま車がクルミを割り、そこから新しい食べ物がえられることに気づいたのです。このように、動物の「遊び」は、優れた結果を想定しておこなわれるものではなく、あとから振り返ったときに生産性が生まれているというものなのです。「やぶへび」というように「やぶ」を突いていたら「へび」が出ることもあります。しかし、そこからイノベーションが生まれることもあるのです。

動物は、時間に余白があるとき「やぶ」を突くという本能をもっています。そうした本能が、なぜ、長い進化の過程で獲得されてきたのかを、よくよく考えてみてください。「遊び」には、進化の上で有利になる合理性があるということです。それが“0%から100%”のイノベーションのプロセスを活性化させるといったことがなければ、「遊び」をする動物は淘汰され、現在は生き残っていないはずなのです。

企業が長期的に市場で勝っていくためには、こうした進化上の合理性についても自覚的でなければならないでしょう。ですから、現在の流行になっている「働き方改革」の視点としても、単に、残業を減らすことばかりに注目するのではなく、余白の過ごし方について考えていくべきなのです。

たとえば、あなたが頻繁にやりとりをする人物をリストアップしてみてください。もし、そのリストが、属性の似ている人ばかりで多様性がない場合は、要注意です。そこには意味のある「遊び」がないということだからです。ある意味で真面目なのかもしれませんが、真面目であることは、大人の世界では評価されないというのは、先の述べたとおりです。

ADVISE

新事業創出に向けた酒井さんからのメッセージ

プロジェクトとは「新たなルーティンワーク」をつくること

イノベーションを創発する「働き方」
イノベーションを創発する「働き方」

「新規事業創出には“使命感”“独創性”“実現可能性”といった3つの要素が関わってきます。この3つの要素をすべて兼ね備えている人は、まず存在しません。特に“独創性”の部分は、大企業が苦手とする分野なのですが、それを恥じる必要はありません。“0%から100%”を生み出すという“使命感”を共有するチームの中で、強みを活かせる『役割』が違うだけだからです。あまり語られませんが“独創性”というのは才能でもあります。それを無理に育てようとするよりも、得意な『役割』に集中すべきです」と酒井さんは話す。

新規事業の創出は自分にはできない、関係ないというのは違う。酒井さんは、大企業において新規事業の創出ができる人材になるためには、プロジェクトの経験を積んでいくことが重要だと話す。

「プロジェクトとは、個人や組織がやったことのない『新たなルーティンワーク』をつくることです。つまりは、マニュアルやワークフローが存在しない『新たなルーティンワーク』をつくり出せたかということがプロジェクトの成果物となります」。

この「新たなルーティンワーク」をつくりだすプロセスの経験が“0%から100%”という旅における大企業の「役割」を強化することにつながるというのだ。また、そのプロセスの第一歩は、過去から現在にいたる事例研究を徹底的に勉強することにあると酒井さんはいう。

「プロジェクトとは、ある課題を解決する目的のもと立ち上がっていくものです。しかし、その課題のほとんどは、世界で初めて見つかったものではありません。そこで大事なのが、その課題に対して、世界中の先輩たちがどうアプローチをしてきたかという事例を研究することです。その事例研究とは机の上だけでおこなうのではありません。人に会ったり、課題が起きている現場に訪れたりと、自分の実体験としての研究も大切です。新しいことを前にすすめるためには『新規性』と『進歩性』のいずれかが必要となってきます。そのためには過去から現在にいたる研究をおこない、どこで『新規性』と『進歩性』が求められているかを整理することができないとなりません。これができて、ようやく“0%から100%”の旅における“10%から100%”を任せられる人材になれるでしょう」。

<Apr.2017 小出 伸作(WAO事務局)>

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PROFILE

酒井穣(株式会社BOLBOP 代表取締役会長)

慶應義塾大学理工学部卒業、オランダ Tilburg 大学 MBA 首席卒業。商社勤務後オランダに渡り、オランダにて約9年間を過ごす。2009年に帰国しフリービット株式会社(東証一部上場)に参画し、人事や経営企画を統括する取締役に就任。著書は『はじめての課長の教科書』など多数。事業構想大学院大学・特任教授。NPOカタリバ理事。介護メディアKAIGO LAB編集長・主筆。誰もが自分らしく生きられる社会の実現を目指し、2013 年に株式会社BOLBOPを設立し、代表取締役として活動。


株式会社BOLBOP(http://www.bolbop.com/)

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