MESSAGE

Apr 2017

イノベーションを創発する「働き方」

酒井穣( 株式会社BOLBOP  代表取締役会長 )

イノベーションは‟0%から100%“のあらゆるところに存在する

組織の最適化された役割によって、イノベーションにおける役割が違うということですね。

組織の最適化された役割によって、イノベーションにおける役割が違うということですね。

(酒井氏)そうです。多くの人は、“0%から1%”を創り出すことがイノベーションだと思っていますが、それは間違いです。イノベーションは“0%から100%”までのあらゆるとこに存在します。そのイノベーションを引き出すためには、スタートアップと大企業が、事業創造におけるお互いの「役割」を理解し、関係管理をおこなっていくことが必要となってきます。

歴史的に “10%から100%”に最適化されてきた大企業が、“0%から1%”に最適化されたスタートアップと関係管理をおこなうことによって、多数の雇用創出につながる、社会的に本当に意義のある新規事業が生まれてきます。大企業間の競争は、こうした関係管理を通して「スタートアップの目利き」に強くなり“9%から100%”“8%から100%”と、より未熟なスタートアップとも付き合えるようになっていくところで起こっています。この組織学習を進めていくことが、大企業にとって現実的で意味のあるイノベーション人材の育成です。この文脈では「アイデアにあふれた人材」は必要ありません。「進捗管理に強いジェネラリスト」が、多数のスタートアップと関係を構築し、それらをポートフォリオとして管理してる状態が理想です。大企業には、創造力ではなくて「だれが、なにを、いつまでに」というPDCAをしっかりと回転させられる能力のほうが重要です。

大企業のみなさん、胸に手をあててみてください。スタートアップをやるということは、日々の9割は失敗するということです。そうしたことを本音で望んでいますか? 本音では「アイデアにあふれた人材」と「進捗管理に強いジェネラリスト」のどちらを信頼しますか?部下にするなら、どちらのタイプですか?その本音で考えてみたとき、大企業の「役割」に自覚的であることの重要性が理解できると思うのです。

「遊び」が生むイノベーションのクリエイティビティ

そうした人材育成や組織学習の考え方は、長年オランダでビジネスをおこなってきた酒井さんご自身の経験が活かされているのでしょうか。

そうした人材育成や組織学習の考え方は、長年オランダでビジネスをおこなってきた酒井さんご自身の経験が活かされているのでしょうか。

(酒井氏)影響はあるとは思いますが、日本の組織学習や人材育成が世界と比べて劣っているとは思っていません。ただ、これまで述べてきたような“0%から100%”のイノベーションを起こすために重要な「働き方」についてはオランダから学ぶことは多くありました。

客観的にみても、オランダのほうが労働時間がずっと短く、そのことによって、社会レベルでの“0%から100%”のイノベーションが起こりやすくなっているのです。現在、日本でも残業を減らす動きが活発化してきていますが、私はこれを良いことと本気で考えています。しかし、日本のビジネスパーソンの主流は、本音では、労働時間を減らすことに対して、まだネガティブでしょう。

「残業は仕方がない」という人もいますが、そんなことはありません。ここまで話してきた「役割」を自覚し、それに集中すれば、労働時間が短いほうが、むしろ大きな成果を生み出すことができます。しかし、日本のビジネスパーソンが、こうした考えを理解できないのは仕方がないことです。オランダのような、実際に、これが機能している世界を見たことがないのですから。

実は、大事なのは、労働時間が短いことではなくて、余白として使える時間が十分にあることです。これは実質的には同じことですが、考え方としては、余白の重要性に気づくことがポイントです。その余白をなにに使うかというと、人間は、ほうっておいても、自然にこれを「遊び」に使います。進化生物学的にも、こうした「遊び」こそ、イノベーションに直結するものなのです。

1

2

3

PROFILE

酒井穣(株式会社BOLBOP 代表取締役会長)

慶應義塾大学理工学部卒業、オランダ Tilburg 大学 MBA 首席卒業。商社勤務後オランダに渡り、オランダにて約9年間を過ごす。2009年に帰国しフリービット株式会社(東証一部上場)に参画し、人事や経営企画を統括する取締役に就任。著書は『はじめての課長の教科書』など多数。事業構想大学院大学・特任教授。NPOカタリバ理事。介護メディアKAIGO LAB編集長・主筆。誰もが自分らしく生きられる社会の実現を目指し、2013 年に株式会社BOLBOPを設立し、代表取締役として活動。


株式会社BOLBOP(http://www.bolbop.com/)

OTHER ARTICLE

このカテゴリの他の記事

自らのチャレンジ数が事業の強みを拡大する

MESSAGE

自らのチャレンジ数が事業の強みを拡大する

数字では計れない価値を届けたい

MESSAGE

数字では計れない価値を届けたい

身近な“不便”や“不満”が事業のきっかけになる

MESSAGE

身近な“不便”や“不満”が事業のきっかけになる