星野リゾートはなぜ強いのか?
星野リゾートの核心「現場力」の創り方
現場力の創り方④「自分で創るキャリア」
最後のポイントが「自分で創るキャリア」。
星野リゾートでのキャリア形成は、会社から指示され、決められていくものではなく、自分で創造していくものと考えられている。
象徴的な制度が立候補プレゼン大会だ。年に二回、ユニットディレクターや総支配人を希望する人が立候補し、全社員に向けて、”この役職に就いたら、こういう戦略でこういう成果を出します”とプレゼンする。社員はそのプレゼンを聞いて、投票やコメントをし、このプレゼン大会から来期のポジションが決まっていくのだ。
「私も、総支配人になる際に立候補しました。立候補制をとることでそのポジションにチャレンジすることは、自分で決めたことなんだと腹をくくれます。私自身実際にその職に就き、何か困難があったときにも、会社に指示されていたら、”やれと言われたからやっているだけ”と、どこか逃げ道をつくってしまうこともあったかもしれません。ただ、自分で決めたことなんだからと思えることで、自身を奮い立たせ、思うようにいかないときにも、踏ん張ることがきたと実感しています」。
また、仮に今のユニットディレクターや総支配人よりも自分がやったほうがより成果が出せると思うときには、自ら立候補できるので、不満やストレスを抱えながら働くという状況を減らすことにも繋がっている。
「ちなみに、星野リゾートでは総支配人やユニットディレクターになることを昇格と呼ばず、『発散』と呼んでいます。社員には、それぞれのライフステージに合わせて、管理職をやりたい、総支配人をやりたい、と思う『発散』の時期もあれば、今は勉強をしたい時期だから、そうしたポジションからは離れたい『充電』の時期もある。『充電と発散』を選べる仕組みが自らのキャリアの選択にも重要となっています」と伊藤さんは話す。
さらに星野リゾートのキャリア選択は、入社段階から始まっている。一般的な入社時期は4月だが、星野リゾートでは、入社時期を年に4回設定している。新入社員は入社時期を選べることで、学生時代の心残り、たとえば海外留学などやりたいことをやりきってから入社できる。ちなみに、この入社時期の選択制は、受け入れる会社側にもメリットがある。一気に新入社員が入社するとなると、一時期にトレーニングの時間が集中する上、新入社員のポジションを大量に空けなければならず、人員に波ができる。年間を通じた安定した入社は、そうした人員の波をなくし、会社の競争力を維持することにも繋がってくるのだ。
その他にも、ビジネススキルやおもてなし、ワインの知識など、自分に必要なスキルを学ぶ、「麓村塾」という社内の研修制度が用意されていたり、学習休暇として、スキル取得や留学のための長期休暇を得ることができる制度もある。
こうした様々な制度があることで、それぞれのライフステージや興味関心に合わせて、自分自身がキャリアを選択でき、社員が長く働き続けることができ、仕事もより楽しくなっていくという。
最後に伊藤さんは、こう話してくれた。
「星野リゾートでは様々な取り組みを通じて、一人一人の社員が、自ら考えて行動する仕組みや機会を模索しながら、創ってきました。その根幹は、仕事を楽しむことが社員一人一人の能力を最大限生かすことにつながり、『現場力』を培うことができると考えているからです」。
こうした想いを基にした制度や風土と、その上に立つ社員一人ひとりの日々の積み重ねが星野リゾートの強さを創っていっている。
<Dec, 2021 新居 未知子(WAO事務局)>
星野リゾートはなぜ強いのか?
星野リゾートの核心「現場力」の創り方
伊藤 靖兼
株式会社星野リゾート・経営企画
1984年生まれ。大学卒業後、㈱星野リゾート入社。「リゾナーレ八ヶ岳」で接客業務などの現場業務を経験したのち、星野代表のアシスタントを務める。社内での立候補制度を利用して発表した事業戦略立案が認められ、入社5年目で温泉旅館ブランド「界 阿蘇」の総支配人となる。その後、2017年には星野リゾートグループ初の海外での開業となる「星のやバリ」の開業に総支配人として携わった。現在は経営企画部門に所属。
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