ファッション業界のイノベーターに学ぶ サスティナブルな事業経営に必要なこと
「衣服ロス」解決への挑戦
現在社会問題となっている「衣服ロス」をご存じだろうか。年間29億着供給されるうちの半分以上にあたる15億着が売れ残り、そのまま廃棄されているのだ。「Tシャツ1着つくるのに、バスタブ10杯分の水が必要です。15億着が未使用のまま捨てられることを考えると、どれだけの水が無駄に消費されているか。地球に悪い影響を及ぼす産業の第二位がファッション産業。ビジネスだから仕方ない、と片付けられる問題ではない」。
そこで、ファッション産業において、何にCO2の排出と水の消費がされているのか調べたところ、CO2の排出は輸送が94.6%占め、水については、原材料調達から日本に輸送してくるまでに9割以上を消費していることが分かった。「ファッション業界を思い切って変えるためには、一番問題になっているところを改善することが手っ取り早いと思います。そこで原材料調達~輸送の問題に手をつけようと、コットンのリサイクルに取り組みました」。
しかし、コットンのリサイクルは何十年もの間、難しいとされ、大手の素材メーカーもポリエステルやウールの再生繊維はできたが、コットンの水平リサイクルは実現できていなかった。そうした中、ファクトリエは、2021年8月に日本で初めて水平リサイクルするコットン100%のTシャツを発売した。
「工場を数珠つなぎにしてやっとできました。海外にリサイクルを任せたらまた輸送でCO2が発生してしまうし、さらなる原材料調達をしたら新しい資源生産のための水が必要になるしCO2も発生する。だからTシャツからTシャツをつくる水平リサイクルにこだわり、さらに、従来のコットンに必要となる水よりも91%も少ない水で生産できるGOTS認証を取得しているオーガニックコットンを採用しました。工場も関西から中部地方にまとめることで、輸送時のCO2発生量削減にも注力したんです」。
もともとファクトリエはサスティナブルな取り組みをだいぶ前から行っていた。その中の一つが3年前から実施しているコットンプロジェクトだ。「山梨にオーガニックコットンファームをつくり、さらに自宅でコットンを育ててもらい、みんなで育てたコットンを集めて国内でTシャツまで完成させるというプロジェクトなんです。洋服の背景やサスティナビリティを考え愛着を感じてもらうきっかけになればと思い始めました。SDGsという言葉は知っていても、実際、自分ごと化するのってすごく難しいと思うんです。コットンなんて見たこともない人が多いと思うんですが、実際育てると洋服の背景を考えるようになったり、愛着を感じてもらえるきっかけになります。さらに、このコロナ禍で自宅でコットンを種から育ててくれる人が増えて、日本全国から、できたコットン送ってくれたりしているんですよ」。
何か困難に取り組むときも、大変か大変でないかは問題ではない、自分が決めて自分がやってることが幸福に結びつき、楽しみながらやっていると話す山田さん。まさに内側の熱が参加者に伝わり、心の温度が高まるイベントとなった。
<Oct, 2021 新居 未知子(WAO事務局)>
ファッション業界のイノベーターに学ぶ サスティナブルな事業経営に必要なこと
山田 敏夫
1982年熊本県生まれ。大学在学中、フランスへ留学しグッチ・パリ店で勤務。卒業後、ソフトバンク・ヒューマンキャピタル株式会社へ入社。2010年に東京ガールズコレクションの公式通販サイトを運営する株式会社ファッションウォーカー(現:株式会社ファッション・コ・ラボ)へ転職し、社長直轄の事業開発部にて、最先端のファッションビジネスを経験。 2012年1月、ライフスタイルアクセント株式会社を設立し、同年10月に「ファクトリエ」をスタートさせる。経産省「若手デザイナー支援コンソーシアム」発起人、毎日ファッション大賞推薦委員。著書「ものがたりのあるものづくり ファクトリエが起こす『服』革命(日経BP社/2018年)」
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