EVENT REPORT

Nov 2021

若者の感性から未来をデザインする方法(前編) ~若者インサイトの今とこれから~

若者を取り巻く日本の現状

若者を取り巻く日本の現状

本題に入る前に、まずは現代の若者の置かれている状況についていくつか頭に入れておきたい前提事項がある。そもそも日本は世界でも類を見ない少子高齢化大国、つまり世界で一番“若い”というだけでマイノリティになる国だ。しかしながら未だに社会の至るところに少子高齢化以前の人口ピラミッドを前提に組んだルールや組織構造が残っており、加えて当時若者だった年長者たちが当時の価値観で話をするばかりに、“若者と社会”や“若者と年長者”の間に多くの関係性不全が引き起こされているという。

 「以前某企業の役員がこんなことを言っていました。若者なんて人数も可処分所得少ない上に理解するのが難しく、移り変わりも激しいのでターゲットとしては後回しで良いですよね、と。数の理論で考えるとコスパが悪いので放っておこうということですよね。このような若者の”量の影響力”が少ないことを理由に彼らをないがしろにする『社会の若者離れ』が様々なところで起こっています。そしてその代償として、若者特有の感性やアイデアといった情報革命後の前提を組み込んだ“質の影響力”を還元でなくなった社会全体の老化という社会課題が目の前に迫ってきています」。

 また、すべての大人は元若者だが、若者に元大人はいない。そのため経験ベースで議論をすると、基本的に大人は「自分が君と同じくらいの頃のことを知っている」と言えてしまい、若者が話すと「君はまだ自分の年次を経験していないからわかっていない」というように、構造上若者が絶対に適わない不均衡が起こってしまう。

 「ですから若者と向き合う際にはこの点に気をつけて話をしなければいけませんし、昔とはピラミッド構造が逆転しているという事実を前提に向き合う必要があります。歴史を振り返っても若くして偉業を成し遂げている人は多く、たとえば松下幸之助は24歳で松下電器を創業しています。自分の部に配属された新人がもしかしたら未来の松下幸之助かもしれないのに、その人の才能を信じて発芽させられるように振る舞うことなく、“うちの部に来たアイツが松下幸之助なわけがない”と勝手に見くびっていないでしょうか。若いだけでダメだと決めつけるのでなく、若者たちのことも信じようというのが今回のメッセージでもあります」。

時代背景から見る若者の価値観

 ここからは本題である“若者を知る”パートに入っていく。一見理解し難く感じる若者の発想や言動も、彼らの育った時代背景とそこから生まれた価値観を丁寧に紐解いていくことで納得できるようになるかもしれない。また納得できなかったとしても、彼らの価値観を知った上で向き合い方を考えることができる。

 「まず、Z世代は不況生まれデフレ育ち。景気が良かった時代を知らないため、あまりポジティブに未来というものを捉えられていません。大震災やリーマンショックなど、これまで大人や社会が大丈夫だと言っていたことが大丈夫ではないと感じる出来事を経験し、これまでの当たり前や前提を疑う感覚がデフォルトで組み込まれています」。

 また、長引く不況や将来への不安、人口減少や教育の変化、情報社会の急速な進展により、かつて世の中全体に共通して存在した、幸せになるために“目指す方向性”が消失。自分の幸せは各人が自己判断で選ぶ時代になった。

 これらを前提としてZ世代がどんな時代を生きてきて、その結果どのような価値観が育まれたのかを情報・経済・学校・家庭の4つの環境側面から紐解いていった。本レポートでは詳細は割愛するが、大まかな概要は以下の通りだ。

【情報】イマドキの若者はフィジカル・バーチャル混在時代を生きてきた
⇒その結果、Face to FaceよりMind to Mindという価値観が生まれた

【経済】イマドキの若者はコストフリー時代を生きてきた
⇒その結果、「費(コスト)」への抵抗という価値観が生まれた

【学校】イマドキの若者は「群」ではなく「“個”」時代を生きてきた
⇒その結果、みんな違って、あたりまえという価値観が生まれた

【家庭】イマドキの若者は親子関係は垂直型から並行型時代を生きてきた
⇒その結果、年の功より“質”の功という価値観が生まれた

1

2

3

若者の感性から未来をデザインする方法(前編) ~若者インサイトの今とこれから~

吉田 将英

㈱電通 電通ビジネスデザインスクエア コンセプター

前職広告代理店にてクライアント企業のブランド戦略立案に従事した後、2012年電通入社。社会や組織の課題をそこに関わる全ての人のインサイトと関係性に着目して解決する「関係性デザイン」を専門とする。特に若者世代のインサイト研究を得意とし、電通若者研究部のメンバーとして10~20代の若年層の心理・動向分析とそれに基づくコンサルティング/プランニングに従事。「電通若者研究所(通称ワカモン)」メンバー。
電通ビジネスデザインスクエアでは経営者のパートナーとして、企業の未来創造にまつわるプロジェクトを多数手がける。著作に『若者離れ』(エムディエヌコーポレーション)、『なぜ君たちは就活になるとみんな同じようなことばかりしゃべりだすのか』(宣伝会議)。

OTHER ARTICLE

このカテゴリの他の記事

21世紀の「旅」を考える

REPORT

21世紀の「旅」を考える

「森林と木と人の関係を考える」

REPORT

「森林と木と人の関係を考える」

Jリーグの「アジア戦略」からみる、スポーツビジネスの可能性

REPORT

Jリーグの「アジア戦略」からみる、スポーツビジネスの可能性