EVENT REPORT

Jan 2019

Jリーグの「アジア戦略」からみる、スポーツビジネスの可能性

視野を変え、違った価値の存在に気づく

Jリーグの主な収益源となる柱は「放映権料」と「スポンサー料」。しかし、どちらも国内市場への依存度が高く、人口減少に伴い収益が減ることは明らかだ。そこで、山下さんは、第3の収益源の柱としてアジア戦略を掲げたのだ。

「アジア戦略を掲げた2009年ごろ、欧州のサッカーリーグの収入はJリーグのおよそ20倍。こんなに差があったら、これからアジア戦略を掲げても欧州リーグにはかなわないんじゃないかとの不安はありました」。

しかし、欧州リーグの収入の内訳を調べてみると、アジアからの放映権料として毎年、多額のお金がアジアから欧州に流れていることに気づいた。そして山下さんは、このお金がJリーグに流れてくるためには、Jリーグならではの “強み”が必要だと考えた。

「クラブや選手の知名度は欧州リーグにはかなわない。では、なにが私たちの“強み”となるのか。考え抜いた結果、私が出した答えは『弱かった・歴史が浅い・アジアにいる』という3つでした」。

“日本をワールドカップに出場できる強豪国に育てる”という想いから発足したJリーグ。時代を経て、いまではワールドカップ常連国になるまでに成長。確かに、弱かった日本のサッカーが、わずか20年ほどの歴史でアジアを代表する強豪国となった事実はあるが、これが“強み”となるのだろうか。山下さんはその“強み”の意味を教えてくれた。

「Jリーグが発足し、日本が強豪国になるまでの成長曲線は世界でも類がないくらいのスピードでした。『弱かった、歴史が浅い』というのは日本人としての捉え方です。アジアから見ると『短期間で強くなるノウハウがある』ということなんです。また、『アジアにいる』ということは、同じアジアの一員として共に成長しましょうというメッセージが発信できて、アジアの国々との距離も縮まります」。

こうした“強み”に気づいたのは、「視野を変えることによって、違った価値の存在に気づく」という発想からだという。

「自分たちが日本人という“氷山の一角”の捉え方ではなく、アジア人という視野で捉えると、いま経済は成長の真っ只中にいて、人口も増えています。アジアからJリーグはどう見えているかと、視野を変えることで、“氷山の一角”ではない違った価値の存在に気づき、それは大きなチャンスを掴むことにも繋がっていきます」。

こうした発想によって導き出したJリーグの“強み”はアジア各国のクラブやサッカー協会から信頼を得るとともに、アジアとの大きなネットワークを築いていくことになる。そして、こうして築いてきたネットワークを地域や企業に還元していくことで、グラウンドを離れた経済にも寄与していくことになったのだ。

地域活性化のための「アジア戦略」

地域活性化のための「アジア戦略」

地域活性化のための「アジア戦略」

前述した第3の柱となる「アジア戦略」は、単に海外に行って儲けようという考えではないと山下さんは念を押す。アジア戦略をおこなう根幹には、日本の地域活性化に寄与していくことがあるというのだ。

1993年の開幕時に8府県、10クラブで始まったクラブ数は2018年には、38都道府県、54クラブまでに拡大(2019年から八戸が加わり55クラブ)。

「開幕時はナショナルスポンサーといわれる大手企業が主なスポンサーになっていただきクラブ運営をしていました。しかし現在、地域にクラブが拡大することで、ローカル企業のスポンサーに支えられているクラブが増えていきました」。

こうしたクラブ数の拡大は、地域社会と一体となったクラブづくりをおこない、サッカーの普及、振興に努めてきたJリーグの成果だ。しかし、その一方で、「地域経済の規模によって、クラブの成長の幅も決まってしまう」という課題がある。

「これからの人口減少や高齢化を考えると、その影響を大きく受けるのが地域のクラブです。その未来を変えるための一つの手段としてアジア戦略があります。アジア戦略をおこなうことで、地域の名前が海外に認知されたり、地域に外国人観光客が訪れたりすることで、地域の経済活動に貢献していきます。アジア戦略またはグローバル戦略というのは地域を元気にしたいという想いが根底にあります」。

この想いに基づきJリーグのアジア戦略は多くの成功を収めてきた。2016年にはJ2に所属する「水戸ホーリーホック」にベトナムのスター選手が加入。このことによってベトナム国内のニュースで「水戸」という名前が多く取り上げられた。「水戸」はベトナムで一躍有名となり、ベトナム人観光客も増えたという。

また、アジアの国では財閥や政財界の要人などの影響力がある人物がサッカー協会の重役を担っていたり、自国のクラブを保有していることが多い。こうした人脈を築き、企業や地域と繋げていくことによって、ビジネスに昇華した事例も数多くあるという。

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Jリーグの「アジア戦略」からみる、スポーツビジネスの可能性

山下修作

公益社団法人 日本プロサッカーリーグ パートナー事業部部長 兼 国際部部長。北海道大学大学院修了。リクルートで営業、編集、企画、新規事業立ち上げ、ウェブメディアのリニューアル、プロモーション、マーケティング等に携わる。2005年より、Jリーグ公認ファンサイト「J’s GOAL」の運営やJリーグのウェブプロモーション事業に従事。2012年より、Jリーグアジア戦略室室長としてアジアを中心とした国際戦略を展開。2016年よりJリーグ国際部長、本格的にアジア戦略を推進する。2017年4月より株式会社Jリーグマーケティング専務執行役員。国内および海外事業を手掛ける。2019年1月より公益社団法人 日本プロサッカーリーグ。

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