EVENT REPORT

Mar 2017

21世紀の「旅」を考える

旅の目的を変えた「スタディツアー」

旅の目的を変えた「スタディツアー」

旅の目的を変えた「スタディツアー」

最近、学生や社会人から人気の「スタディツアー」という旅行プログラムがある。スタディツアーとは、NGOやNPOの現場を視察したり、ボランティア活動をおこなったりするなど、現場での“学び”を目的としたツアーのことである。

鮫島さんは、このスタディツアーのプログラムも多く開発してきた。

「H.I.Sでのスタディツアーを始めたのは2008年ごろでした。当初は“スタディツアーをやろう”と決意して始めたわけではありませんでした。当時、H.I.Sにはバングラデシュ人の役員がいまして、彼の自国に貢献したいという想いからバングラデシュの首都のダッカに支店をつくりました。ところがつくったはいいが、バングラデシュに人を呼び込むことのできる観光資源があまりなかったんです。なにか人を呼び込む魅力はないかと、モヤモヤしながら現地を探し回っていたとき、2006年にノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行や世界最大規模のNGOであるBRACの存在を知り、彼らのおこなっている活動に衝撃を受け、これは立派な観光資源になるのではないかと思ったのがスタディツアーを始めたきっかけです」。

従来、旅行商品というと、絶景や歴史的建造物、食といったコンテンツを目玉として開発されることが多かった。しかし、鮫島さんは、そのような概念を取り去り、その国の魅力をシンプルに伝えていこうと考え、それがスタディツアーという旅行プログラムにつながったという。

その後、鮫島さんは、バングラデシュに工場を持つアパレル雑貨会社と企画した工場体験ツアーや、東浩紀さん(株式会社ゲンロン 代表取締役)と企画したチェルノブイリ原発ツアーなど、様々な方々の協力を得ながらスタディツアーを開発。幅広い年代や職業の人たちの間で人気となった。

鮫島さんはスタディツアーには、いままでのツアーと大きく違うことが2つあると話す。

1つ目は、コミュニティを旅として捉えなおしたということである。

「いままでの旅行商品は旅中がメインとなるが、スタディツアーは、旅の重層的な面や価値観を伝えていきたいという想いから、旅前・旅後も含めた一つの学習プログラムとしています。具体的になにをしているかというと、旅前にはスタディツアーのテーマについての事前セミナーをおこない、旅中では、“現地の人と参加者”、“参加者同士”の交流を目的とした振り返りをおこなっています。そして、旅後は再度参加者に集まっていただき、事後報告会・ワークショップまでをおこなうことで、コミュニティを形成しています」。

2つ目は、コミュニティによって生まれる新たな気づきの学習である。

「自分が持っていない他者の着眼点は、新たな気づきを与えてくれて、触発されていきます。旅後の事後報告・ワークショップでは、旅のときに撮った写真のなかでベスト3を参加者に持ってきてもらって、その写真を選んだ意味を聞いています。すると、同じツアーに参加しているのに、参加者が持ってくる写真は全てバラバラ。皆、着眼点が違います。同じ時間を体験した人たちの様々な見方や意見を聞くことで、新たな気づきを得ることができる。それがスタディツアーの醍醐味でもあります」。

“弱いつながり”がミレニアル世代の心を掴む

最近、H.I.Sで好評を博している旅行商品のなかで、「シェア旅」という一人参加限定プランがある。シェア旅は、カップルや友達同士での参加はNG。初めて会った人たちと、国内外に旅行し、共有体験をする。このシェア旅にも、スタディツアー同様の旅前・旅中・旅後での交流プログラムを取り込んでいるという。

「このシェア旅の参加者で多いのが、ミレニアル世代といわれている2000年以降に成人になった人たちです。スタディツアーの企画でご一緒させていただいた東さんは“弱いつながり”というキーワードをあげ、会社生活のなかでの固定的な関係や家族といった堅い関係性ではなく、実は“弱いつながり”のなかで新しいことが生みだせるのではないかといっています。私もこの意見に共感します。旅というものを“弱いつながり”が生みだす、一つのコミュティを作る機会と捉えると、ミレニアル世代がなぜシェア旅を支持するのか理解することにつながっていくのではないのでしょうか」。

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21世紀の「旅」を考える

鮫島卓

H.I.S.専門店グループリーダー。世界50ヶ国を旅したバックパッカーで、H.I.S.著書『世界の絶景さんぽ』編集長でエコツアー・スタディツアー・世界一周旅行・ユニバーサルツーリズム・秘境旅行などH.I.S.テーマ旅行企画プロデューサー。2006年モンゴル建国800周年事業実行委員会事務局長として官民連携のモンゴル初の国際観光イベントを企画実施、ハウステンボス再生担当として初の黒字化に貢献、ミャンマー・ブータンでJICA観光開発プロジェクトや国内での地方創生・観光振興事業に従事し、地域と共につくる持続可能な観光を推進している。

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