ナイトタイムエコノミーの変化によって生まれる新市場
繋がりから広がるナイトタイムエコノミーの可能性
続けて齋藤さんは、もう一つの調査事業についても話してくれた。
「先ほどのモデル事業の例でも分かるように、体験型観光において文化というものは極めて重要です。観光客に対してインスピレーションを与え、非常に体験価値を高めることができます。おそらく今後も文化がどんどん観光にコミットしていくようになるなか、観光が文化に対してプラスの影響を与えていけるような仕組みをきちんとつくっていくことが必要となります。そのために、まずは現状把握としてクリエイティブ・フットプリントと呼ばれる文化調査をおこないました」。
具体的にはミュージック・ベニュー(ライブハウスやクラブ、ミュージックバーなど)が一つの文化拠点になっているだろうという仮説に基づき、東京のミュージック・ベニュー約500個をリストアップし、以下の3つの観点で評価をおこない、スコアを集計した。
①コンテンツスコア
そこにどういったコンテンツがあるか。コンテンツの多様さやコミュニティフォーカス、創造性があるか。
②スペーススコア
①のコンテンツを表現するスペースがどれだけ充実しているのか。ライブハウスやクラブの数だけでなく、たとえば公園、美術館や博物館など、本来の用途ではないところで表現活動ができるのか、またそのスペースの使いやすさ。
③フレームワークスコア
法規制や夜間の交通アクセスなど、表現の環境がどれだけ優れているか。
「過去に同じ調査をおこなったベルリンとニューヨークの結果と比較すると、総合点が高い順にベルリン、ニューヨーク、東京でした。結果だけ見ると残念ですが、内訳を見ていくと①のコンテンツの面白さという意味では東京は3都市の中では一番高く、総合スコアを下げていたのは他の2項目でした」。
斎藤さんたちはこの原因を、優れたクリエイターやアーティストたちと政策決定者や不動産開発関係者との繋がりがなく、良好なコミュニケーションが取れていないからではないかと考えた。そこで普段なかなか接点がないプレーヤーの方たちの関係構築を目的としたナイトキャンプや、大規模なナイトエコノミーのシンポジウムなどの取組みをおこなった。
こうした取組みが評価を受け、「観光庁に加えて文化庁と環境省との合同事業になるなど、関係各所を巻き込むことができて、ナイトタイムエコノミーの可能性は広がった」と話す齋藤さん。
「文化庁は美術館や水族館を所管しているので、そうした公共施設での夜間活動がしやすくなりますし、国立公園や温泉地を所管する環境省も、保存するだけではなくもっと活用の仕方を考えたいと言ってくれています。そこに観光体験をどうつくっていくかという観光庁の目線が加わることで、今後はより多角的な取り組みができるのではないかと考えています」。
ナイトタイムエコノミーの変化によって生まれる新市場
齋藤 貴弘
一般社団法人ナイトタイムエコノミー推進協議会 代表理事 / ニューポート法律事務所パートナー弁護士
2006年に弁護士登録の後、勤務弁護士を経て、13年に独立。16年にニューポート法律事務所を開設。個人や法人を対象とした日常的な法律相談や訴訟業務を取り扱うとともに、近年は、風営法改正を主導するほか、ナイトタイムエコノミー議員連盟の民間アドバイザリーボードの座長、夜間の観光資源活性化に関する協議会の委員を務めるなど、各種規制緩和を含むルールメイキング、新規事業支援に注力している。著書に『ルールメイキング: ナイトタイムエコノミー』で実践した社会を変える方法論」がある。
OTHER ARTICLE
このカテゴリの他の記事