民間企業による宇宙への挑戦
~宇宙資源開発ビジネスの概況とispaceの取組み~
加速度的に拡大する宇宙開発マーケット
アポロの時代には、石を持ち帰ったり月面を探査したりしても水を発見することはできなかった。しかし50年を経た今、水の存在の直接的な証拠が数多く発見されたことで、国レベルから民間企業レベルまで様々なプレイヤーが宇宙開発に参入しようとしている。
実際、宇宙開発のマーケットは拡大の一途をたどっており、2016年は30兆円、19年は40兆円市場と言われ、2030年には100兆円規模になると予想されている。
NASAやesa、JAXAといった国家機関や国際宇宙開発機関はもちろん、2000年以降はイーロン・マスクの「スペースX」、ジェフ・ペソスの「ブルーオリジン」、リチャード・ブランソンの「バージンギャランティック」といったビリオネアによる宇宙開発への参入が市場を盛り上げてきた。現在ではインドや中国といった新興国が月面着陸を目指すプロジェクトを進めていたり、各国でispaceのような宇宙開発ベンチャーに加え、これまで宇宙開発に携わったことのない民間企業の参画も増加している。
「こうした動きの大きな要因となっているのが、先ほどお話しした月を活用することによる宇宙での輸送体系の変化です。それが実現することで宇宙空間での活動も拡大していき、様々な産業が活躍できるようになると考えられているからです。日本でもトヨタが2029年の打ち上げを目指し、月面を人が移動するための与圧ローバーを開発する計画がありますし、ミサワホームは月面居住を見据えて極地用居住ユニットの実証研究を始めています」。
宇宙産業という“新たな産業”をつくるために
ビジネスを成り立たせながら月を地球の経済・生活圏に取り込むというビジョン達成のため、ispaceでは次のようなロードマップを描いている。
まずは技術を持ち、自力で月面に行き、月面を探索してデータを得ること。次に資源の在り処のデータを取り、試掘・採掘・加工して販売すること。そして様々な産業と協力して居住環境を整えることだ。
「我々は2023年までに2回の月面探査ミッションを計画しています。そこで既に契約済みの2回の打ち上げで、1kgあたりいくらという形で地球から月への物資の輸送を請け負います。1回目の打ち上げは2021年を予定しており、現在JAXAが計画している月面着陸無人小型探査機の打ち上げより時期が早いため、JAXAはセンサーなどの重要な機器を輸送してテストを行い、自身のミッションの成功確率を上げることに活用しようとしています。次のデータの加工・販売については、月面のインフラ整備の受注を目指す民間のインフラ企業は月面の温度や放射線などの環境データを欲していますし、メディア、エンタメ系の企業は月面の映像コンテンツを求めており、ここにビジネスチャンスが存在します」。
そして最後の環境整備において大切なキーワードは、さまざまな産業のプレイヤーを巻き込むことだと中村さんは言う。
「これは我々だけで達成できることではないので、官民だけ、宇宙開発企業だけでなく、様々な企業が参画してバリューチェーンをつくっていく必要があると考えています。我々の顧客となるゼネコンやプラント企業だけでなく、それを支える通信、電機、商社的な機能やファイナンスなどのインフラ機能を持ったプレイヤーが参入する。更にその裏側には、ロボティクス、エレクトロニクス、ナノテク技術を持った企業や、創薬などのヘルスケア企業も関与するようになります。我々の月面着陸と探査を目指すミッションが、様々な企業に活用され、宇宙開発という新たな産業をつくりあげる大きな一歩になると考えています」。
民間企業による宇宙への挑戦
~宇宙資源開発ビジネスの概況とispaceの取組み~
中村 貴裕
株式会社ispace 取締役/COO
1980年生まれ。東京大学大学院で惑星科学を修了後、大手外資系コンサルティング会社に就職。コンサルタントとして6年間活躍した後、大手情報サービス会社に転職し、新規事業開発を担当。2015年2月、世界初の民間による月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」に日本から唯一挑戦しているチーム「HAKUTO」を手掛ける株式会社ispaceに参画。
株式会社ispace:https://ispace-inc.com/
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