ボードゲームで学ぶ いまさら聞けない税金のしくみ
今の社会に興味を持ち、知り、考える
続くクロストークでは開発に至った経緯や加藤さんの想いについて伺った。
加藤さんは「ライフ・リテラシーゲーム」の開発に至った理由を二つあげる。一つは冒頭にあった加藤さんの企業での経験。二つ目は、国が何年も取り組んでいるにもかかわらず、社会保障制度の課題が一向に改善されない状況に疑問を感じたからだという。
「改善されない理由を考えた結果、これまでのように一部の人たちだけに任せておけば良かった時代は既に終わっていて、みんなで考えなければ答えにたどり着かない時代になっているのではと思いました。そのためには、まずは今を知るということが一番重要。その方法として“興味を持つ”→“知る”→“考える”、という順序が一番の近道なのではないかと考えました。そこで興味を持ってもらいやすいゲームにしてみようと思ったんです」。
社会のしくみや制度の良い点、問題点を、ゲームが終わった後も考え続けられるように意識してゲームを設計したと話す加藤さん。最終的に選挙の意義も理解できるようになっているのも、このゲームの特長のひとつだ。例として、「選挙を棄権する」というマスに止まると5マス戻る点に触れ、次のように語ってくれた。
「実はゲーム全体を通して5マスというのは最大のペナルティです。そこに先ほどの想いを込めています。現在の選挙は、投票率が低い場合は有力候補が有利になる仕組みになっていて、棄権は結果的に当選した候補に一票を入れたのと同じことになります。これを逆と誤解している方が結構多いので、皆さんには棄権の正しい認識としてぜひ覚えておいていただきたいと思います。それぞれの制度を受益者として享受するだけではなく、こうした制度を含めた社会の仕組みやありようは、私たち自身が参画してつくり上げていくものなのだという意識を持ってほしい。そんな想いから、民主主義の根幹である選挙は一番大切だと考えて、あえて5マス使って表現しています」。
それぞれのライフステージに合わせたライフ・リテラシーを
ゲームが完成するまでの道のりは、すべてが大変だったと加藤さんは話す。
「まずは頭の中で描いていたものをとりあえず形にしました。そこから高校の先生や各分野の専門家の方々にヒアリングを重ねながら内容を磨き上げていき、ある程度のクオリティになったら実際にプレイしてもらってモニタリングをする、ということをひたすら繰り返しました」。
その中でもっとも心を砕いたのは“正確に教える”ことと“わかりやすく伝える”ことの両立だったという。各分野の専門の先生たちは“正確に”という意識が強いが、そのまま反映させると条件による細かな違いが多く、はじめて学ぶ子どもたちには分かりにくいため、あえて“わかりやすく”という方を優先させたのだそうだ。
そんな加藤さんに今後の展望について伺うと、現在のゲームをもとにした発展版の構想を聞かせてくれた。今回プレイしたのは、学生や社会人になりたての人を対象に基本的な知識を盛り込んだ「入門編」だが、こういった知識はライフステージごとに必要な内容が異なってくる。
「30-40代向けには子育てや海外転勤、シルバー世代向けには介護保険など、それぞれのライフステージに合わせた情報を盛り込んで、年代別のものをつくっていきたいですね。他にも、外国人労働者の増加に伴い、外国の方たちが日本に住むにあたって制度を分かりやすく学べるものや、ゲーム自体のアプリ化やデジタル化ができたらと思っています。現在は家庭用にもう少しゲーム性を高め、今より安価に販売できるものも開発中で、既にモニタリングを行っています」。
今回のイベントは、20代~60代と幅広い年齢層の約70名が参加。加藤さんが提唱する“ライフ・リテラシー”は、まさに学ぶ機会がないまま現在に至った大人たちが切実に必要としているということがわかる、大盛況のイベントとなった。
<Apr.2019 鈴木 潤子(WAO事務局)>
ボードゲームで学ぶ いまさら聞けない税金のしくみ
加藤 千晃
ライフリテラシー 代表
2006年より8年間、企業の管理部に勤務。労務・税・社会保障制度の知識の重要性を痛感し、ゲーム教材の構想を練る。
社会生活を送るうえでの基礎知識「ライフ・リテラシー」を提唱し、2014年12月「ひらつかフレッシュビジネスコンペ」にて事業認定。翌年、教材「入門!ライフ・リテラシーゲーム」開発。現在は教材販売・レンタルの他、教育機関や企業向けの出張授業、セミナーなどを行っている。
ライフリフリテラシーHP:
http://life-literacy.com/
OTHER ARTICLE
このカテゴリの他の記事