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Jul 2019

「難民問題」という社会課題への新たな切り口から挑戦

渡部 清花( NPO法人 WELgee代表 / 東京大学大学院修士課程在籍 )

異なる意見を持つ人も含めて、色々な人との繋がりが大事だということですね。

異なる意見を持つ人も含めて、色々な人との繋がりが大事だということですね。

そうですね。何をするかも決まっていなかった初めの頃は、自分たちが知った現状について色々な人に興味を持ってもらおうと、「1日10人に難民問題について話す」と決め、手当たり次第に色々な人にしていました。そのなかで、「犯罪率とか考えたことある?」「難民よりももっと助けるべき人はほかにいるんじゃない?」と否定的な意見もありました。ただ、こうした否定的な意見のおかげで、自分にはこの問題の100のうち、1しか見えていないのかもしれないな、と気づくことができました。

自分と異なる意見を知らないと、自分の正義で正面突破する方法しかないですが、世の中の異なる意見を知れば知るほど、自分のやりたいことを実現するためにはどういう伝え方ややり方をすれば良いのかという戦略も立てやすくなります。

社会の仕組みを変えるために、目に見えるプラスの実績を

今後の展望を聞かせてください。

やはり、私たちがいなくなってもまわっていく社会の仕組みをつくるというのが最終的なビジョンです。でもビジョンを語るだけでは、共感は生まれるけれど協働は生まれない。それでは意味がなく、目に見える具体的な事例を1つでも多くつくっていくことが大事だと思っています。去年は9件の就労マッチングが成立し、つい先週も一人決まりました。こうした企業もハッピーになる実績が増えていき、その企業の方々が難民問題を主語で語ってくれたら、世に中の人たちの見方も変わってくると思っています。難民と関わる人が増えて、誰にとってもプラスなことが起こる取り組みだということが広がっていけば、この仕組みが世の中のスタンダードになるかもしれない。

50年後には、難民という背景を持つユニークな人たちが日本の社会で活躍することが当たり前になっていて、「そういえば彼らのことを、昔は難民って呼んでいた時代もあったね」と言えるような世界になったらいいなと思います。

ADVISE

新事業創出に向けた渡部さんからのメッセージ

多様であることで、自分一人では絶対に思いつかないアイデアが生まれる

「難民問題」という社会課題への新たな切り口から挑戦

最後に、新事業創出において大切なことは何かを伺うと「チームがいかに多様であるかということだと思います」と渡部さんは話してくれた。

「私たちの取り組みは、1万ピースくらいあるパズルをつくっているようなイメージを持っています。大きくて難しいこのパズルの絵柄を少しずつ部分的にでも完成させていくにはどうしたら良いのかを考えているんです。その時に力を発揮するのが、
メンバーの多様性。WELgeeのスタッフは本当に多様です。子ども視点で見れる人もいれば、ジェンダーの視点を持っている人、世界の他の国ではこうだよってことを考えられる人、権利という面、政治の視点、ビジネスの観点・・・など。複雑な課題だからこそ、多様な視点で考えていくことが大事となり、そうしたことで一人では絶対に思いつかないような戦略アイデアを考えることができます」。

また渡部さんは、WELgeeがおこなっている企業向け研修事業の活動を通して感じた企業の多様性についても語ってくれた。

「同じ会議室に50代の男性ばかりしかいない時に、だいたい皆さん多様性がないとおっしゃいます。でも本当にそうでしょうか?表面的に同じような属性なだけで、それぞれが50年生きてきた過程で全く異なる経験をしているはずです。難民の背景をもつメンバーが企業向けの研修で講師を務めることもあります。ワークショップやディスカッションを通してお互いの様々な局面が見えてきます。多様性がないのではなく、持っている多様性に気づけていないだけ。ないと思っていた中にある多様性に気づけた時、抜群の力を発揮すると思います。上司や同僚としてだけではない視点で相手を見たり、仕事の話だけでなく人生を語ることが多様性のヒントになると思います」。

難民問題という壮大な課題に立ち向かいながらも、その表情は常に明るく前向きな渡部さん。1万ピースのパズルを完成させるため、多様性という名のピースを様々に繋ぎ合わせながら一歩ずつ進んでいく彼女には、確実に今とは違う未来が見えている。


<Jul.2019 鈴木 潤子(WAO事務局)>

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PROFILE

渡部 清花(NPO法人 WELgee代表 / 東京大学大学院修士課程在籍 )

1991年、静岡県生まれ。様々な背景を持つ子どもたちが出入りするNPOの実家で育つ。大学時代はバングラデシュの紛争地にてNGOの駐在員、国連開発計画(UNDP)のインターンとして平和構築プロジェクトに携わった。2016年に日本に来た難民申請者の社会参画とエンパワーメントを目指すWELgeeを設立。2018年NPO法人化。空き家活用型シェアハウス事業や経験・スキルを活かした就労事業に取り組む。自身も難民と暮らす。英語より得意なのはバングラデシュの先住民族語(日本人で2人しか話せない言語)!
グローバル・コンソーシアムINCO主催『Woman Entrepreneur of the Year Award 2018 (女性起業家アワード2018)』で、グランプリを受賞。Forbes 30 under 30のJapanとAsia にて選出。東京大学大学院 総合文化研究科・人間の安全保障プログラム 修士課程在学中。トビタテ!留学JAPAN一期生。内閣府世界青年の船事業第24回代表青年。


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