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Jun 2020

純粋な好奇心が発明の原動力

高橋 鴻介( 発明家/株式会社電通 コミュニケーション・デザイナー )

Braille Neue(以下ブレイルノイエ)をご存じだろうか。従来の点字にアルファベットやカタカナのデザインを重ねて印刷することで、視覚障がい者専用のものだった点字を、晴眼者(目が見える人)でも読むことを可能にした新しい点字だ。開発者の高橋鴻介さんは広告代理店に勤めるデザイナー。一日一個アイデアを考えることを習慣にしている中、ブレイルノイエの発案は、点字利用者と話をしていた際に「なぜ自分は点字が読めないのだろう?」と思ったことがきっかけだったという。

徹底的なリサーチに基づいておこなう代理店の仕事と、自身の好奇心からアイデアを考える発明とが良いバランスになっていると語る高橋さんに、日々のアイデアの生み出し方や発明を通して実現したい世界についてお話を伺った。

点字とデザインの出会い

ご自身が点字を読めないと気づいたことから、どのようにブレイルノイエの発明に繋がっていったのでしょうか。

ご自身が点字を読めないと気づいたことから、どのようにブレイルノイエの発明に繋がっていったのでしょうか。

仕事をきっかけに視覚障がいの方と出会って、彼らの世界を知っていくうちに、興味深いなと感じることがたくさんあったんです。そこで自分みたいにその世界を知らなかった人が点字という新しいものに出会った時に、興味を持ったり好きになるにはどうしたらいいだろうと思い、僕が好きなデザインという領域で点字のこと考えたら面白そうだなと思ってつくり始めたという流れでしたね。

“一日一アイデア”という習慣があったからこそ、ちょっとした疑問や好奇心をプロダクトまで落とし込めたということは大きいのでしょうか。

それはあると思います。あの習慣がなかったら「点字をどうやったら読みやすくできるかな」とは考えなかったと思いますし、そういう意味では考える癖や、考えたことを形にする癖というのがついたのもあの習慣のお陰だと思います。

文字とデザインというのは親和性が高いものですか?

文字とデザインというのは親和性が高いものですか?

文字のデザインというのは、情報デザインの中ではひとつの本流だと思っていますね。僕も好きなグラフィックデザインの領域においては正しく情報を整理して伝える情報伝達という機能がとても重要で、それは文字のデザインにおいてもすごく大事です。でも文字の面白いところは、その情報伝達という機能がありつつ、“印象”という別の側面があること。たとえばゴシックだとなんとなく強い印象だったり、明朝だと優しく話されているような印象があったり・・・ある意味文章の声を規定するような側面があると思っています。どちらかというと僕は文字や書体のデザインは、機能面よりもぱっと見た時に“かわいいな”とか“受け入れられるな”といった直観性をつくるのが面白いと思っています。そういう意味ではブレイルノイエも視覚障がいの方にとっては従来の点字と同じでも、それを受け取った晴眼者の意識が変わるという点が大きな特徴だと思っていますね。

発明の種は何気ない日々の中に

具体的に“一日一アイデア”はどのように実践しているのですか?

一日の中で何気なく感じた疑問やちょっとした気づきを大事にして、その場でスマホなどにメモしておくようにしています。普通に生活していると、意外と忘れてしまうので。そのメモをベースに時間のある時にアイディアを文章やスケッチでモノに落とす作業をすることが多いですね。

日々の生活の中での些細な心の動きを書き留めておくことで、それが発明の種になり得るんですね。

そうですね。発明の時はあえてあまりリサーチしないようにしています。もちろん本業の代理店の仕事では世の中の流行や潮流をしっかりリサーチした上で企画を考えるのですが、発明はもっと自由でいいなと。自分が違和感を感じたり好きだなと思ったり、もっとこうなったらいいのにと感じたことを大事にしようと思っているので、そういう意味では僕の中で本業と発明が良いバランスなんですよね。発明は純粋に自分が好きなものを突き詰められる、いわば息抜きのようなもの。その中で最近は、自分が面白いと思ったものや、やりたいことにどう意味づけをすれば、世の中や社会を少し良くすることに寄与し、社会実装することができるかを意識してプロダクトをデザインしています。それがなかなか難しいんですが(笑)。

これまでいくつもの発明をされてきた中で、共通するテーマのようなものはあるのでしょうか。

これまでいくつもの発明をされてきた中で、共通するテーマのようなものはあるのでしょうか。

最近になって、コミュニケーションや、つながりをつくるというのが無意識に自分の中にあったんだなということに気づきました。たとえば、ペットボトルのキャップだけで建物を組み立てられるCAPNUTというアイデアで僕が一番気に入っているのは、子どもでもお年寄りでも誰でも締められるというところなんです。建築を民主化するというか、みんなで組み立てられるものにしたり、みんなで一緒にワイワイできるという部分を大事にしています。ブレイルノイエは言わずもがな、見える人も見えない人も一緒に読める文字なわけですが、そういった今までなかったつながりをつくるということが自分の中では大きなテーマだなと思っています。

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PROFILE

高橋 鴻介(発明家/株式会社電通 コミュニケーション・デザイナー )

1993年12月9日、東京生まれ秋葉原育ち。慶應義塾大学 環境情報学部卒。卒業後は広告代理店で、インタラクティブコンテンツの制作や公共施設のサイン計画などを手掛けつつ、発明家としても活動中。墨字と点字を重ね合わせた書体「Braille Neue」、触手話をベースにしたユニバーサルなコミュニケーションゲーム「LINKAGE」など、発明を通じた新規領域開拓がライフワーク。主な受賞歴にWIRED Audi INNOVATION AWARD、INDEX: Design Award、TOKYO MIDTOWN AWARDなど。

*外部リンク:
『マスナビ』取材記事 https://www.massnavi.com/people/1006.html


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