EVENT REPORT

Mar 2022

星野リゾートはなぜ強いのか?
星野リゾートの核心「現場力」の創り方

現場力の創り方②「フラット」

現場力の創り方②「フラット」

ポイントの二つ目が「フラット」な組織体制だ。
そもそも星野リゾートの組織形態は階層が三つしかない。総支配人、各部門を統括するユニットディレクター、そしてプレイヤーだ。本社はなく、各施設で戦略をたて、実行しており、経営企画、経理、人事、購買などの部門は、施設の運営をサポートするサポート部門と呼ばれている。

しかし、星野リゾートのいうフラットは、こうした組織構造を指しているわけではなく、フラットな組織行動や組織文化をいっている。
「私たちのいうフラットな組織というのは、コミュニケーションが双方向にとれる、言いたいことは言いたい相手に直接言える組織です。サービス業、とくに接客業の現場においては、お客様の要望に、どれだけスムーズに柔軟にお答えできるかが重要だと考えています。いわゆる、伝統的なピラミッド組織では、上司や先輩が言ったことを実行していく、コミュニケーションが一方通行な組織が多いですが、そうした組織だと、その都度、上司の承認や相談が必要になり、お客様から要望を受けても、瞬時に各自が判断して実行しにくい状況が生まれます」。

さらに、フラットな組織は経営判断の質も高めるという。総支配人やユニットリーダーは、顧客のニーズを直接伺う機会が少ない。経営判断を迫られる際に、顧客の情報がないと正しい経営判断はできないため、顧客と接している社員一人一人が意見を伝えることは、経営者や総支配人が適切な経営判断をすることに繋がっていくのだ。

またそうした経営判断の内容が、たとえば各プレイヤーの意見とは異なっていても、各人は言いたいことを言っており、経営判断の背景もプロセスも理解しているので、納得感をもって行動できるという。このようなフラットな価値観、組織行動は、星野リゾートの根幹にある考え方だと伊藤さんは話す。


しかし、フラットな組織とは簡単にいえるが、本当に実現していけるものなのか?
「私自身すごく苦労しました。バリで総支配人をしていたとき、現地の社員は言われたことをやるというのが自分の仕事だと思っていて、自ら発想して、アクションしたり判断することを、ためらうような状況でした。そんなある日、お客様のチェックインを担当していた社員が、その日が、お客様の誕生日だと気が付き、私に伝えてくれました。一緒に何ができるかを考えたところ、彼女は、ディナーの際に、レストランに社員を集めて、ケーキを贈り、歌をうたう提案をしてくれました。実際にやってみると、お客様が非常に喜んで下さり、社員本人もすごく喜んで自信に繋がったようでした。そういった小さな成功体験を積みながら、少しずつ星野リゾートの文化、フラットな行動を理解し、組織文化も浸透していきました」。


こうした組織行動のために、星野リゾートでは情報を共有することを重要視している。その一つがお客様の満足度調査。宿泊客にアンケートに答えてもらい、その点数とコメントを社員全員に共有している。
「例えば、夕食の満足度あがってこないとなったら、どんな取り組みをするべきか?そもそもの問題は、サービスか?味か?それとも全体か?と、数字で分析しながら改善していきます。管理職だけでなく、全社員が共有することで、お客様がこうおっしゃてるからこういうアクションしていこうよ、と判断に繋がっていく。良い情報とネガティブな情報を共有していくことが非常に大事になっています」。

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星野リゾートはなぜ強いのか?
星野リゾートの核心「現場力」の創り方

伊藤 靖兼

株式会社星野リゾート・経営企画
1984年生まれ。大学卒業後、㈱星野リゾート入社。「リゾナーレ八ヶ岳」で接客業務などの現場業務を経験したのち、星野代表のアシスタントを務める。社内での立候補制度を利用して発表した事業戦略立案が認められ、入社5年目で温泉旅館ブランド「界 阿蘇」の総支配人となる。その後、2017年には星野リゾートグループ初の海外での開業となる「星のやバリ」の開業に総支配人として携わった。現在は経営企画部門に所属。

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