「森林と木と人の関係を考える」
「森林文化」「林業」「環境」の枠組みで捉える森林
森林を、大きく「森林文化」、「林業」、「環境」の枠組みに整理して、鳥羽さんに解説いただいた。
●「森林文化」:日本人は木の民族
「日本神話に登場する神、スサノオノミコトについて日本書紀にこんな文脈があります。『乃ち鬚髯(ヒゲ)を抜きて散つ。即ち杉(スギ)に成る。又胸の毛を抜き散つ。是、檜(ヒノキ)に成る。尻の毛は、是披(コウヤマキ)に成る。眉の毛は是樟(クスノキ)に成る』。木の神でもあるスサノオミコトが身体じゅうの毛を抜いて木に変え、大地に木々を茂らせたというこの記載は、少なくとも2000年以上も前(神話の時代)から、日本人は植林をしていたということを示唆しているんです。
また、縄文時代には山のふもとで森林の恵みを活用して生活する“里山文化”と呼ばれる生活様式が存在していた事が分かっています」。
いわば“木の民族”ともいえる日本人は、森林に関する文化を育んできたと鳥羽さんはいう。
「昔の人々にとって森林は未開の地“異界”としては恐れられていました。暗いし、形も尖っている。そのうち人は、わからない物や怖いところには何か神々しい物がいるのではと考えるようになり、山自体が神様となり、信仰の対象になっていきました。“異界”としての森林文化は今も残っており、山岳信仰と密接な結びつきがあります」。
「また、人は森林を恐れる一方で、その恵みを活用し、生活様式を発展させていきました。木の実をすりつぶして食べ、木材は住宅や神社仏閣の建築、燃料、造船、さらには飛行機のプロペラ、車のドアの内側の合板にも使用してきました。このように1940年代まで、木は日常的に多くの場面で使われていました。それがだんだんと金属、樹脂に取って代わられ、いまに至ります。そうしたなか、最近では木材の新しい利用法として、ハイエタノールの素材としたり、セルロース(植物繊維)を使った高機能素材なども出てきています」。
●「林業」:産業としての森林
「いま、日本の木の多くは“切り時”を迎えています。木材には齢級(れいきゅう)というものがあり、だいたい1齢級が1年から5年くらいです。日本の多くの木は、現在9~10齢級、つまり樹齢40~60年というところ。住宅建材としても柱や梁として十分活用できる大きさです。これは、戦後から高度成長期にかけ、木が大量に使用されたことで、政府が拡大造林を計画したことによります」。
当時の計画では、50~60年経った頃、主に建築用材として状態の良い木が育ち、有効活用されているはずだったのだが、時が経った現在では使用されなくなってしまっている。その理由の一つに関東大震災や戦災による不燃化への都市計画の変化があると、鳥羽さんは教えてくれた。
「災害や戦災によって都市部では木造建築の大部分は倒れ燃えてしまいました。この経験から日本の都市計画は、無機系構造材料(鉄筋コンクリート造)を使用した工法や金属系構造材(鉄骨造)に耐火被覆を施した工法を中心とするものに変わっていきます。利用割合の多くを占めていた建築用材としての木材使用が減っていってしまったんです」。
さらに、ほかの政策や市場経済の変化なども木材使用に大きな影響を与えた。
「1961年日本政府は『木材価格安定緊急対策』を決定し、国内の森林の緊急増伐とともに、木材輸入の拡大を推進しました。その後、1974年に木造枠組壁構法(ツーバイフォー(2×4)工法)の規格化が行われ、その規格にあった木材が北米などから日本に入ってきました。一方で、この2×4工法には、構造材の木材が壁の中にあり意匠性を要求されないので、節が出ないよう手間暇かけて育った日本の木材の品質の高さは、あまり関係がありません。日本が得意としていた柱と梁を使う在来工法は下火となり、価格・機能面の優位性から近代的な木材の使い方をする住宅が徐々に増えていきました。また、為替の自動変動相場制や、1985年のプラザ合意の円高ドル安を受け、国内木材価格は下落していきます。建築工法と嗜好、そして市場経済の変化にともない、日本の林業に大きな変化が生まれたのです」。
木材が売れず、また売れても安い、森林の手入れに投資が出来ない。その結果、荒れた山が全国に増えてしまった。しかし、一方で林業を活気づける取り組みも近年は見られるようになってきているという。
「個人的にはフォレスター(森林総合監理士)制度の導入に注目しています。海外の木こり、つまり“フォレスター”は社会的地位が非常に高い。彼らは森を守り、生物に詳しく、高性能林業機械も扱える、そんな高学歴で高収入な人材だと認識されているのです。日本でも、森林に高度的に関わる国家資格を取得し、“森林に携わる職業の水準を文化的に上げて行きたい”という想いのもと、若い林業関係者や学生に資格挑戦する人が増えてきています」。
●「森林環境」:切ると同時に植える、循環を考える
「最後に環境の話を少しだけ。地球観測衛星ランドサットの画像を用いてNASAとグーグル、メリーランド大学が作った、2000年から2012年の世界の森林の変化を可視化したサイトがあります。これを見ると、森林が減っているのが視覚的に良くわかります。また地図を拡大していくと南米のジャングルはきれいに四角く森林が減っていて畑のように伐採されています。ただ残念なことに切った後に植えるということがおこなわれていないので森林が荒廃していっているんです。私は環境の専門家ではありませんが、切った後には植えることは必要だと思います。産業の話に戻ってしまいますが、木を売る時には新しく植える木が育つのにかかる費用も織り込んで価格を決めていかないと、地球がもたなくなってしまうと感じています。やはり森林の問題は複雑なので、環境面だけではなく産業面でもどのような対策が必要か考えなければなりません」。
「森林と木と人の関係を考える」
鳥羽 真
Like Bla Re(ライクブラリー)主宰。(株)八幡ねじにて技術営業職にて大手メーカー担当。退社後、岐阜県立森林文化アカデミー木造建築スタジオ、京都大学院生存圏研究所生活圏構造機能分野研究生、同研究所技術補佐員を経て、設計事務所勤務とコンサルタント事務所に参画、木造建築物の設計や滞在型の農園開発、首都圏での農作物の販売等に従事。2012年11月に独立。現在は中央区の森環境ふれあい村推進協議会協議委員、NPO法人日本橋フレンド理事、任意団体石巻・川の上プロジェクト副運営委員なども歴/在任。
OTHER ARTICLE
このカテゴリの他の記事