EVENT REPORT

Sep 2021

地方創生における本来のビジネスの在り方

大企業が向き合う地方創生

地域内資金循環が上手くいっている地域のもう一つの例としてスペインのバスク州がある。再開発をおこなう地域とそうでない地域のメリハリを明瞭につけることも日本が見習うべきポイントだが、木下さんがより注目したのは世界的にも有名な美食店にいるシェフの存在だ。

「日本では未だに農林水産業や飲食を含めたサービス業に対してのリスペクトが非常に低いですが、良いところで修業し、素晴らしい料理を提供できる料理人は地域に富をもたらしてくれる非常に大きなエンジン。世界中で引っ張りだこです。地元でとれたものを作物として出すのではなく、彼らが加工して提供することでその何十、時には何百倍という末端価格で売ることができる。彼らのようにセンスが良く、そうした付加価値をクリエイティブに生み出せる人材を大切にする地域というのは伸びていきます。新しいサービス産業として日本がインバウンドや観光産業を地域の稼ぎにしていくためには、バスク州のように観光客一人当たり数万円の消費が地域に落ちていくようなものをつくって形にすることが必要なのです」。

一方で、従来の補助金に頼らないクリエイティブな発想ができる人材は都市部に集中していて地域にほとんどいないという課題もあり、大企業を含めた人的リソースに富んだ組織が協力できるポイントでもある。他にもモノでの貢献として地域にない生産設備などを用い、ゼロからはつくれない新商品を開発して提供したり、カネの面では行政予算と地銀融資の選択肢しかない地域に対して野心的に新規性の高い事業へのリスクマネーを投じる等、大企業として関われる部分についてアドバイスがあった。

 「ただ、地方創生において大企業に求められる最も重要なことは“利益の取り方”の変革です。現状の受託方式では結果的に地域から富を奪う構図となり、本来の地方創生には繋がりません。地域にとっても企業にとってもプラスになる視点を持ち、労働分配・資本分配の部分でいかに地域がコミットできる領域を作っていくのかが非常に重要なポイントになってくる。地域の利益を生み出し、その一部を大企業が受け取っていくという形で協働で事業をおこなうのが理想的です」。

 今回木下さんに実践者として様々な事例を基にお話しいただき、参加者からも「補助金に頼らない地方ビジネスのつくり方が知れて勉強になった」、「自治体、地銀、不動産、地域商社などさまざまなステークホルダーと関係をつくって取り組む必要があることが分かった」など、今後凸版印刷が地域創生に関わっていく上で前向きな感想が見られた。


<Sep, 2021 鈴木 潤子(WAO事務局)>

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地方創生における本来のビジネスの在り方

木下 斉

一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス 代表理事

1982年東京都生まれ。高校在学時からまちづくり事業に取り組み、00年に全国商店街による共同出資会社を設立、同年「IT革命」で新語流行語大賞を受賞。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。08年に設立した熊本城東マネジメント株式会社をはじめ全国各地のまちづくり会社役員を兼務し、09年には全国各地の事業型まちづくり組織の連携と政策提言を行うために一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立。全国各地の地域再生会社への出資、役員を務める。著書『まちづくり幻想』『稼ぐまちが地方を変える』『凡人のための地域再生入門』『地方創生大全』等多数。

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