~敏腕編集者に学ぶ~人の心に響く企画のつくり方と届け方
自身のルサンチマンを作品に
昔から漫画や小説が好きで、学生時代は読書に加えて映画を頻繁に観る生活を送っていたという金城小百合さん。彼女は出版社への入社後わずか数年で『cocoon』や『花のズボラ飯』といったヒット作を立ち上げてきた実力者だ。イベントの前半では、彼女がこれまでに担当してきた具体的な作品を例にとりながら、金城さんの編集方針や考え方を伺っていった。ここではその中からいくつかを紹介する。
まずは今日マチ子さんの『cocoon』。ひめゆり学徒隊という、戦争中に看護師として働き、そして死んでいった少女たちをモチーフにしたフィクション漫画で、島の少女サンの視点から戦争の悲惨さを描いている。文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査委員会推薦作品に選出され、2013年には舞台化、第23回読売演劇大賞優秀演出家賞も受賞した作品だ。
「私の育ちは本州ですが、生まれが沖縄で両親も沖縄の人なので、戦争についての話をことあるごとに家で聞いていました。でも学校で戦争の話をすると、なんだか疎ましがられるような感じがあって、沖縄以外の人は沖縄戦のことについて本当に全然知らないんだという、違和感や孤独感のようなものをずっと抱えていました。それに、戦争の話をしていてすぐ政治の話になってしまうのも変だなと思っていて。沖縄にはお母さんやおばあちゃんが死んだ、友達が死んだという人が今もたくさん生きています。家族や友達が死んだ話をしているのに、それが政治の話になってしまうというのは、多くの人が戦争を他人ごとのように思っているからだと感じました。そうした経験から、沖縄以外の人にももう少し自分ごととして沖縄の戦争について感じてほしいと強く思うようになりました」。
ひめゆり学徒隊についても、その名を知っている人は多くても彼女たちの日常をイメージするほどには情報量がないとも感じていたという金城さん。当時、『センネン画報』で少女たちのきらめきや青春の甘酸っぱさを描いていた今日マチ子さんに金城さんが抱えていたルサンチマンを伝え、この漫画の企画を提案し、連載に至った。
「今日さんの作風は一見戦争と組み合わせが悪いように思えますが、みずみずしい女の子たちの青春がどんどん崩れていく、戦争によって日常が破壊されていく様子を描くことで、戦争のむごさや悲しさというものをより一層表現できたと思っています。最近では新入社員から『cocoon』を読んだと言われることも多く、作品を通して若い世代の子たちにも沖縄の戦争のことを伝えられた実感があってとても嬉しいです」。
~敏腕編集者に学ぶ~人の心に響く企画のつくり方と届け方
金城 小百合
㈱小学館 ビックコミックスピリッツ編集部
1983年生まれ。秋田書店に入社後、入社3年目に立ち上げた『花のズボラ飯』が「このマンガがすごい!」オンナ編1位、マンガ大賞4位受賞、TVドラマ化など話題に。その後、漫画誌「もっと!」を創刊、責任編集長を務める。その後、小学館に転職。その他の担当作に、藤田貴大主宰の「マームとジプシー」によって舞台化された『cocoon』、TVドラマ化作品『プリンセスメゾン』 、『あげくの果てのカノン』『往生際の意味を知れ!』『サターンリターン』『恋と国会』『女の体をゆるすまで』など。現在、スピリッツ編集部に所属しながら、ファッション・カルチャー誌「Maybe!」の創刊、編集にも携わっている。
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