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Dec 2018

その人が気づいていない価値を届ける

手島 麻依子( 松竹株式会社  メディア事業部 宣伝プロデューサー )

自分が面白いと思ったものを、世の中の人たちにも届けたいと思ったのですね。

私は、“もの”を通じて、作った人と受け取った人の両方がハッピーになるように間をつなぐ仕事がしたいと思っています。たとえばロウソクだと、災害時に電気が消えた時に使うだけだったものが、「癒しや安らぎも得られて、生活を演出できますよ」と伝えることで、新しい価値が生まれましたよね。気づいていないものの良さを伝えてハッピーな驚きを届ける、その部分のコミュニケーションをプランニングすることが好きなんです。

加えて、松竹に入社したことで、歌舞伎や日本の人気映画シリーズ、世界的に著名な映画監督の周年企画などを担当し、リブランディングの事業にも携わる機会が増えました。そんな中で、自分の知らなかった日本の魅力に気づいて、日本の文化にも興味を持つようになりました。そうした経験があって、“知っているようで、実は知らなかった築地”と“日本の食文化”というものにもすごく興味を持ったのかなと思います。

その人が気づいていない価値を届けたいという想いの原点は何ですか?

私自身、自分の人生を豊かにするものを享受して生きていきたいと思っています。なので、世の中にあるすばらしいものを失いたくない。でも、私だけがその価値を知っていても、世の中の人たちが気づいていなければ、それはきっとなくなってしまいますよね。逆に、それを欲しいと思う人がたくさんいれば、その先もずっと残っていく。私がいいなと思うものをみんながいいと思ってくれれば、私が楽しい人生を送ることができるなと(笑)。それは半分冗談ですが、新しい発見で広がる世界があると思っているので、これからもそういうものを届けていきたいと思っています。

気づいていなかったことに気づくことで世界が広がる

現在取り組まれている“人と映画の物語”をテーマにしたサイト「PINTSCOPE」を立ち上げた理由を教えてください。

現在取り組まれている“人と映画の物語”をテーマにしたサイト「PINTSCOPE」を立ち上げた理由を教えてください。

私の部署では劇場公開した後のDVDやBlu-ray作品を取り扱っています。昔は新作DVDが飛ぶように売れた時代もありましたが、今は映画のDVDを買う人自体が減ってマーケットは縮小してきています。一方で、DVD化されている映画は何千タイトルもある。せっかくたくさん良い作品があるのに、見られていない作品も多くて勿体ないと感じていました。時代を超えて、そういった作品を届けるためにはどうしたらいいだろうかと考えていた中で、“今”のその人に響く映画に出会える場所があったらいいのではと思い、「PINTSCOPE」を立ち上げました。

これも、その人が気づいていない価値を届けたいという手島さんの想いに通じていそうですね。

そうですね。私も出産してから昔に比べて映画を見る機会が減っているのですが、映画を見ないことで、映画を通して広がる色々な世界と出会う機会を失っているなと感じています。

映画が世の中に出るまでは、多くの人が関わっています。そのつくり手の熱量が込められた作品が、思わぬ力を持っていることも多い。それも映画の魅力のひとつ。あとは、色々な人たちの人生を追体験できます。経験したことのない、自分とは異なる考え方に気づいたり、新しい自分を知ったり、元気をもらったり、時に救いになる瞬間もあったり。だから、ぜひ映画を見てほしい。

自分の普段の興味関心とは違う角度から、「PINTSCOPE」をきっかけに出会った映画を見て新しく気づくことがあったら嬉しいですね。

ADVISE

つまずいたり悩んだりした時は自分の“本音”に立ち戻る

その人が気づいていない価値を届ける

最後に、手島さんに新事業創出に向けたアドバイスを伺ってみた。

「新しいことをする上ですごく思うのは『本音から逃げるな』ということです。本音とは何かというと、本当に自分がやりたいことや、やっていて気持ちがいいこと。好きなこととは少し違って、たとえば私の場合は“コミュニケーションを通して今まで気づかなかった価値を届けたい”というのがそうです。新規で何かをやりたいということは、絶対その人なりに引っかかった面白さがあって、それはその人が大事にしているポイントだと思うんです。目の前のことに追われているうちに見えづらくなってしまうことも多いですが、つまずいたり悩んだりした時にはそこに立ち戻ることが重要だと思います。そうすると、そもそも自分はどうしてそれをやりたかったのかということを思い出すことができる。現状の中で、最低限守らなければいけないことは何かに立ち帰り、その先に進んでいくための原動力にすることができます。あとは、すべてはまず動いてみることから始まるということをお伝えしたいですね。特に企業の中で新しいことをする場合、会社を一度でも説得できたなら、あとは動く。それを楽しみながら人とのつながりを広げていくことができれば、可能性はどんどん広がっていくと思います」。


気づいていないことに気づくことで、人生はより豊かになると手島さんは話す。「TSUKIJI WONDERLAND」も「PINTSCOPE」も、彼女が一貫して大切にしている“気づいていない価値を届ける”ということを具現化したものだった。その人が知らなかったものを届けるということは、少なからずその人の人生に影響を与えていそうだ。

「おこがましいかもしれませんが、そうなっていると嬉しいですよね」。

今はその対象が映画だが、必ずしも映画でなくても良いのだとも話す手島さん。たとえ形や手法が変わったとしても、自身の本音から逃げることなく、これからも私たちが気づいていないものの価値を届け続けてくれるだろう。

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