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Dec 2018

その人が気づいていない価値を届ける

手島 麻依子( 松竹株式会社  メディア事業部 宣伝プロデューサー )

2016年に公開し、話題となった築地市場のドキュメンタリー映画「TSUKIJI WONDERLAND」の企画を立ち上げたプロデューサー、松竹株式会社の手島麻依子さん。手島さんが現在所属する松竹 メディア事業部では、劇場公開後の映画作品などのDVD/Blu-ray発売・販売や、配信やTV放送、海外へのライセンス販売といった二次利用と、小規模公開の邦画・洋画やアニメーション映画の配給などを手掛ける。

「TSUKIJI WONDERLAND」の公開から2年が経った現在、手島さんは新たなプロジェクトとして人と映画の新たな出会いの場を提供する映画Webマガジン「PINTSCOPE(ピントスコープ)」を立ち上げ、運営している。自らがコンテンツを企画し、そして新たなカタチでの発信を模索し続ける手島さんを訪ねた。

日本の豊かな魚食文化を残したい

「築地」をテーマにしたドキュメンタリー映画「TSUKIJI WONDERLAND」を作ろうと思った経緯を教えてください。

「築地」をテーマにしたドキュメンタリー映画「TSUKIJI WONDERLAND」を作ろうと思った経緯を教えてください。

私の所属するメディア事業部ができた6年ほど前は、弊社では劇場公開での興行収入を収益の柱として、プラスアルファで他の権利運用による収益を得るというビジネスモデルが主流でした。一方で、動画配信サービスなどの新しいプラットフォームが登場してきた時期でもあり、映画・映像作品を楽しむ環境が多様化していました。そこで、これからは収益の主軸を国内興行に限定しないコンテンツの開発も模索していこうという考えがありました。

その頃、個人的に毎週のように築地市場に通っていて、海外からの観光客の多さも目の当たりにしていたので、「築地」は海外向けにも面白いと思ってもらえるコンテンツに違いないと感じていました。なかでも、築地をテーマに映画を作りたいと考えた一番のきっかけは、ある仲卸の方のお話を聞いたことです。

その方は、本業のほかに「築地お魚くらぶ」という教室を開催していました。そこでは魚のさばき方をはじめ、いろいろな魚の魅力を教えてくださるのですが、その方が「今、日本の魚食文化がどんどん衰退していて、このままだと自分たちの商売も成り立たなくなってしまう。だからもっと魚食普及ということをしていく必要があるし、なにより子どもたちに美味しい魚を食べてほしいんだ」ということを熱弁されていて、その心意気と将来を見越したうえでの使命感に胸を打たれました。その共感が後押しとなって、「築地」という文化を届ける映画を自分たちで作ろうと決意しました。

当たり前すぎて気づかなかった築地のすごさ

手島さんが築地の魅力を発信したいと強く感じたのはなぜでしょう。

手島さんが築地の魅力を発信したいと強く感じたのはなぜでしょう。

手島さんが築地の魅力を発信したいと強く感じたのはなぜでしょう。

一つは、日本食が世界でも注目されていますが、日本の食文化を語る上でに、「魚」は欠かせないものだからです。これだけたくさんの種類の魚を食べられて、かつ、季節やその年の天候といった自然の影響を受けながら、「今年のサンマは旨いね」と楽しみにしたり、「もう出てきたんだ」と喜んだりすることはすごくすてきなことだと感じます。その価値を届けたかった。

もう一つは、美味しい魚を家庭で食べることができるのも、実はすごく特別なことだと知ったからです。海外の魚市場に行くと、臭いがしたり、魚もぐったりしてたり。あれは、ひとつには手当ての問題なんですね。日本では漁師さんが獲った時点や仲卸さんの手に届いた時点で、魚の種類や食べ方に応じて適切な手当てをしているから、店舗や家庭にも美味しい状態で魚が届くんです。

しかも、それを一人のスーパーマンがおこなっているのではなく、同じ技術を持った人たちが築地だけでも一万人規模でいます。日常、当たり前に考えていたことが、実は長い歴史の中で育まれ、受け継がれてきた日本独自のシステムや、技を持ったたくさんの人たちによって成り立っているという事実が面白く、そのすごさに感動したんです。これは、日本以外にはない、だからこそ海外からの注目度も高いのだと気づきました。

同時に、「これはもっといろんな人に知ってもらった方がいい」「知ったら絶対に面白い」という確信が生まれて、そこから動き出しました。映画は、国境や時代を超えて多くの人に見ていただくことができるので、ぴったりだと考えました。

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