EVENT REPORT

Jun 2019

いま、イノベーションをあらためて考える
~イノベーション経営への挑戦~

大企業でイノベーションを興すためには

大企業でイノベーションを興すためには

大企業でイノベーションを興すためには

よく大企業ではイノベーションは興せないと言われるが、そんなことはないと紺野さんは明言する。現に世界では、ハイアールや、マイクロソフト、フィリップスといった大企業がイノベーションを興し、変革している。

紺野さんは大企業には、イノベーションを興すための以下の材料があると教えてくれた。

・大企業には多くの資産がある
・大企業にもアントレプレナーシップがある(気持ちを持っている人がいる。イノベーションをやりたいという人たちはいる)
・スタートアップは大企業の資産を活用できる
・「規模」が障壁ではなく、むしろプラスの要素

こうした材料を持つ一方で、大企業にはイノベーションの大きな阻害要因があるという。それは「官僚主義」だ。

「大企業からスタートアップ的な機能を除けば、『官僚主義』だけが残ります。日本の多くの大企業がトップの判断や指示待ちに陥っています。まさにそこを変えていかなければいけません。『官僚主義』を維持している企業に未来はなく、社員の自律性・自発性を基底にしなければイノベーションは起きないのです」。

米国でもGDPにおける大企業のシェアはここ50年で35%から72%に増大している。しかし、こうした数字の背景には、大企業の存在価値の広がりとともにその主役交代が進んでいる事実があるという。

「大企業の主役交代が進んでいるということは、大企業の寿命が縮んでいるということです。つまり生き残っていくのはユニコーン企業のように一気にスケールできる企業か、もしくは大企業でも機動的に自社の事業をスケールできる企業のどちらか。創造と成長の企業文化と、機動力を高める仕組み・場が成長をもたらすのです」。

こうした状況のなか、紺野さんは"いまこそあらためてイノベーションを考える時“と話す。「イノベーションは長期的な話で、今は目先のプレッシャーへの対処で精いっぱい」、「イノベーションをどう進めたらいいかがわかっていない」など、実践のためのボトルネックを特定し、解消していかなければならない時期にあるというのだ。

イノベーション経営と構想力

多くのボトルネックが存在する中では、まずはイノベーションができる環境や仕組みを整え、経営の在り方を変えていく必要がある。

現在、世界各国を巻き込んで、イノベーション経営のためのISO化(標準化ガイドライン)の策定が進んでいる。いかなる地域・規模の企業もイノベーション経営をおこなえるようになるのだ。紺野さんが代表理事を務めるJINでは、日本側の代表として今年度中の発表を目指している。

また、企業を取り巻くイノベーションの環境は、イノベーションを率いるリーダーとしてCIO(Chief Innovation Officer)を設置する企業が増えているほか、リーンスタートアップやデザイン思考、ビジネスモデルキャンバスといったツールが世界的に普及するなど、イノベーションへの敷居も低くなってきている。

しかし、ISOに則ってこれらのツールを使っただけで、果たしてイノベーションは興せるのだろうか。こうした疑問に紺野さんはこう話す。

「ISOやツールは、形式知でしかなく、これだけではおそらくイノベーションは興せないでしょう。では、形式知以外になにが必要となってくるか。日本企業に最も欠けているのは『構想力』です。構想力とは、今後の社会の中で自分の会社はこういう変化を生み出せるという想像力と意志(主観力)。そしてそれを想像で終わらせず、新たなビジネス・エコシステムに展開できる実践力を含めた力のことです」。

たとえばフィリップスは従来の家電メーカーからヘルスケア企業に転換した。Fordやトヨタも単なる自動車メーカーではなくモビリティカンパニーに、銀行もキャッシュレス社会においてファイナンスサービスを扱う企業へと社会の変化に合わせ構想し、自らをリフレームしている。

「自社がどの方向に進んでいくのかという構想力がなければイノベーションの方向性も定まりません。世の中に対するビッグクエスチョンや新しい視点(ビューポイント)からビッグピクチャーを描き、こうすべきだという目的をちゃんとつくれることが大事。そしてその目的と現実界のギャップをデザイン思考などのツールを使いながら、構想力を発揮して埋めていく。そこでイノベーションが起きてくるのです」。

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いま、イノベーションをあらためて考える
~イノベーション経営への挑戦~

紺野 登

多摩大学大学院教授 / エコシスラボ 代表
早稲田大学理工学部建築学科卒業。株式会社博報堂マーケティング・ディレクターを経て、現在多摩大学大学院教授(学術博士)、慶應義塾大学大学院SDM研究科特別招聘教授、
一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)及び一般社団法人Future Center Alliance Japan(FCAJ)代表理事。
組織や社会の知識生態学(ナレッジエコロジー)をテーマに、リーダーシップ教育、組織変革、研究所などのワークプレイス・デザイン、都市開発プロジェクトなどの実務にかかわる。著書に、『ビジネスのためのデザイン思考』、『利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのか(目的工学)』、野中郁次郎教授との共著に『知識創造の方法論』、『構想力の方法論: ビッグピクチャーを描け』などがある。

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