EVENT REPORT

Feb 2017

翻訳しても届かない?
伝わる外国人向けメディア戦略

インバウンドの第一歩はセグメンテーションとタイミング

インバウンドの第一歩はセグメンテーションとタイミング

インバウンドの第一歩はセグメンテーションとタイミング

それでは、実際に各国に対してどのような情報を発信していけば共感を得られるのか。最近のインバウンドの傾向や、各国ごとの特徴を教えていただいた。

「最近のインバウンドの傾向でよく言われているのが、“モノから体験へ”、“団体から個人へ”、“都市から地方へ”の三つの変化です。しかし、そうはいっても、初めて日本に訪れ、団体旅行で東京・京都・大阪を巡る訪日外国人はいなくなりません。海外の方を一括りにして、全ての人に傾向があてはまり、右から左に変わっていくわけではありません」。

国別の捉えわけが必要だという鶴岡さん。アジア圏でもその傾向は国によって異なる。

中国大陸や、近年訪日数が増加傾向にあるタイは、団体旅行で日本に初めて訪れる人が多い一方で、台湾、香港、シンガポールはリピーターが多いため、日本人とも感覚が近く、インバウンド対策にも取り組みやすいそうだ。また言語などの障壁もあり、あまり日本企業がターゲットとしない韓国は、リピーターにつながる若年層の訪日数が多く、買ったものをSNSなどで発信するので情報拡散力も強いという。

こうした特徴を捉えつつ、いつどの国にアプローチするか、そのタイミングも国によって異なる。各国の祭日、為替の状況は常にチェックし、「旅行計画のどのタイミングで自社の商品やサービスを知ってもらうのか」を考え分ける必要があるのだ。

「旅行の計画期間は約数か月ありますが、実際の旅程は数日ほど。旅前にしっかりとリーチしないと、日本にきてからアプローチしても遅いんです。旅行者のジャーニーマップを捉え、行動動線上でいかに対応するのかがインバウンドの対策には重要となってきます」。

また、各国で共通している旅前の最大のメディアは口コミであり、海外の方はソーシャルメディアやブログを通して、日常的に日本の情報に接していると鶴岡さんはいう。

「特にアジア女子は、訪日予定がなくても毎日、日本の情報を追っており、お菓子の発売情報も押さえているほどです。訪日機会となる祭日の前だけでなく、365日情報発信をし、祭日前までに情報に厚みをもたせるなどの対応が必要です」。

流行ではなく深層心理を掴む

流行ではなく深層心理を掴む

流行ではなく深層心理を掴む

また、流行がすぐ変化していくのもインバウンドの特徴。相手が何を求めてどう行動しているのか、その変化を把握することが必要なのだそうだ。

「少し前までは、日本の炊飯器がまとめて買われていたと思いますが、最近、生活感度の高い中国の人たちの間では炊飯器から土鍋に人気が集まっています。また夜の過ごし方も、以前はロボットレストランが盛況でしたが、今、アジアの人が集まるのは安く美味しく食べられて居心地の良いカフェとなっています。“美味しいお米を食べたい”“夜を楽しく過ごしたい”という気持ちは変わっていませんが、選ぶものは常に変わっていっています」。

訪日旅行者の心理や感覚を知ることは、インバウンド対策の最も大事なことだと鶴岡さんは話す。相手がどんなものが好きなのか、どんなものを受け入れるのかを知らなければ、振り向かすことはできない。

また気を付けたいのが“和風のもの”がいいだろうという発想。特に、アジア人には“和風のもの”がピンとこないこともあるという。

「例えば、台湾人は和食洋食関係なく、“もちもち・ふるふる・ふわふわ”のように食感が良いものに注目します。ふるふる揺れるパンケーキなんて、動画をアップするとすごい反応です。“和風のもの”というだけでなく、訪日外国人の感覚的な好みをベースとして、日本でしか体験できないものが魅力となっていきます」。

もう一つ気を付けたいのが、金銭感覚だ。アジア女子はとにかくコストパフォーマンスを重視する。

「一時期流行した化粧水はアジア女子にとっては高い買い物だったため、いまでは同じ成分の安い化粧水の大容量タイプを選んでいる。“荷物になって重いのでは?”と日本人なら心配するところも、そこはお得感の方が重要になっていきます。こうした金銭感覚は本当に細かい。ドラッグストアで購入する場合も、どの店舗が一番安いかを知りたがります。コストの妥協は一切なく、旅中でもお得情報を求めています」。

インバウンド対策では、翻訳の正しさや外国時受け入れ態勢の整備など、対応すべきことはたくさんあるが、そうした物理的な対応に加え、「日本の良いもの」の押し付けをしないこと、金銭感覚の把握など、訪日旅行者の立場に立つことが求められているのだ。

「インバウンドにまつわるオープンデータには様々な情報が出ています。そうした情報を掴みながらも、その中の内訳をしっかりと読み込むこと。なにより具体例を探ることが大事です」と鶴岡さんは話す。

イベント終了時には、「現在のリアルのインバウンドの実情を知ることができた」「質の高い情報発信のためには、各国のスタッフとのコンテンツ作りなど、国ごとにセグメントされた細かい対応が必要だと再認識した」などの感想が寄せられた。

<Jan.2017 新居未知子(WAO事務局)>

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鶴岡優子

株式会社昭文社グローバル事業本部マーケティングディレクター
訪日インバウンドメディア「DiGJAPAN!」では、インドネシア、英語圏全般と、台湾、タイ、韓国、シンガポール、国内のインバウンド事業者向けページほか、計11のFacebookアカウントを運営。さらに外国人旅行者向けウェブデイト・アプリを立ち上げる。6言語での情報発信は、ネイティブのスタッフを揃え、訪日旅行のトレンド、ニーズの高さ、旅行者の予算や実現性も考慮して国ごとに企画を詰め、取材・発信を行う。
DiGJAPAN!(https://digjapan.travel/)

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