EVENT REPORT

Sep 2021

地方創生における本来のビジネスの在り方

『逆算開発』という考え方

帰国後、木下さんは各地域の知人たちと会社をつくり、不動産の視点から地域創生に取り組んでいった。一例として福岡では、1階のテナントの公道へのはみだし営業が可能になれば賃料が高くなるという不動産所有者のメリットに着目し、不動産所有者たちと協力して公道へのはみだし営業の規制緩和に乗り出した。結果、国家戦略特区となった同エリアには人が集まるようになり、周辺の店舗にも恩恵が出た。地権者が協力するメリットを見つけ、地域の人たちと協力して一つ一つ進めていくことが非常に重要だという。

「また、地域の商店街や地域に欠けている業態や業種を入れて市場適合させていくことも大切です。たとえば愛知県春日井市勝川の事例。この地域は世帯所得がしっかりしていて、教育投資額が大きい世帯が大きな比率を占めていたのですが、商店街には教育関連のテナントがほとんどありませんでした。子育て期の人たちがたくさん流入してきているのにファミリー向けの商売も全然ない。そのあたりを合わせていこうということで、自宅で英会話を教えていて外で開業したいという人たちを集めて英会話教室をつくりました」。

木下さん曰く、地域の活性化で重要なのは儲かる人・経済的に成功する人を一人でも多く出すこと。衰退している商店街では新たに出店しただけではうまくいかないため、地元の重鎮達のネットワークを駆使した広報宣伝をおこなうなど、あらゆる手段でPRと人集めをおこなったそうだ。そうして8年かけ、今や200名を超える生徒が通うまでになった教室を中心に経済が生まれている。

「まずテナントに入ってくれる人たちを決め、きちんとマーケティングをしてお客さんがどのくらい入りそうか予測し、家賃金額から逆算して投資金額を査定する“逆算開発”の手法を使えば補助金に頼らないまちづくり事業が可能です。これは商品開発やサービス産業でも同じですね。市場適合も逆算開発も普通に考えれば当たり前の話ですが、まちづくりや地域活性化をする上で実践している人たちが少ないので、実際にやって見せているのが私たちの仕事でもあります」。

必要なのは付加価値の高い地域産業

必要なのは付加価値の高い地域産業

必要なのは付加価値の高い地域産業

2014年頃から地方創生の取り組みが強化されてきたが、問題が地方の人口減少に設定されていることの異常さは十分認識しなければいけないと語る木下さん。1990~2000年代に第3次ベビーブームを逃した時点で人口減少が回復する見込みはなくなり、東京一極集中の状況も変わらないからだ。

「では地方は人口が少ないから終わりなのかというとそうではありません。ドイツやフランスのように日本より少人口でも国として成立するやり方は存在します。特にフランスは第一次大戦時から少子化が問題になっていた国です。重要なのは人口だけではなく、地域の産業や人口の質、つまり『稼ぎ/人口』を考えること。たとえばフランスのシャンパーニュ地方のエペルネーという非工業地帯は、人口僅か2.3万人の都市でありながらフランスで一人当たりの所得が一番になることもあります」。

少人口であっても付加価値の高い産業を地域で持っておくことで、そこで生きていける人たちの数が一定数担保され、持続的に地域経済が回っていくという構造が存在するというのだ。

「要はまちを一つの会社を見立てて経営するということが非常に重要で、出ていくものを削減し、地域内で稼ぎを回していってまた更に稼ぎを増やしていくという“地域経済循環”をしっかりつくっていく必要がある。また、これを地元資本の会社がやるのか外の資本の会社がやるのかによって流出が大きく変わってくるので、いかに地域内で資本を循環させていくかがポイントです」。

大企業が地域創生に協力する場合も、衰退地域では生産・分配・支出のサイクルがうまくいっていないという長期的・慢性的な疾患があるという認識を持った上で、その部分をどのような形で改善することに貢献できるのかを考えることが必要だ。

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地方創生における本来のビジネスの在り方

木下 斉

一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス 代表理事

1982年東京都生まれ。高校在学時からまちづくり事業に取り組み、00年に全国商店街による共同出資会社を設立、同年「IT革命」で新語流行語大賞を受賞。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。08年に設立した熊本城東マネジメント株式会社をはじめ全国各地のまちづくり会社役員を兼務し、09年には全国各地の事業型まちづくり組織の連携と政策提言を行うために一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立。全国各地の地域再生会社への出資、役員を務める。著書『まちづくり幻想』『稼ぐまちが地方を変える』『凡人のための地域再生入門』『地方創生大全』等多数。

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