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Jul 2019

「難民問題」という社会課題への新たな切り口から挑戦

渡部 清花( NPO法人 WELgee代表 / 東京大学大学院修士課程在籍 )

日本に難民としてやってくる若者たちを、仕事や働くことを通してエンパワーし、日本社会に参画するための入口づくりをおこなっているNPO法人WELgeeの代表 渡部清花さん。

難民認定率が0.4%(2018年)と、他のG7諸国と比べ圧倒的後進国である日本。そうした現状のなか渡部さんは、意欲と能力のある難民が、難民認定を待つ以外の選択肢をつくれないか模索し続けている。

法人立ち上げから4年目となるタイミングで、新たな切り口から難民問題という社会課題に挑む渡部さんにお話を伺った。

自分たちがいなくなっても機能する社会の仕組みをつくる

難民問題の解決に向けて多くの取組みをおこなっているWELgeeですが、いま力を入れている取り組みを教えてください。

難民問題の解決に向けて多くの取組みをおこなっているWELgeeですが、いま力を入れている取り組みを教えてください。

難民と企業との就労マッチング事業です。現在149人の難民申請者と81の企業の登録があり、就労後も難民の方たちが長く働き続けられるよう、正社員としてのマッチングをおこなっています。ただ、就労さえできればどんな仕事でも良いということではありません。能力と夢を持った意欲ある難民たちが自分の本当にやりたいことを叶えるため、私たちが彼らの能力を本当に欲している企業へ繋げ、仕事を通じて自己実現をするためのチャネルとなることを目的としています。そうしたマッチングができた時に初めて彼らの持つパワーが最大化され、企業にとってもプラスになる良い循環が生まれることになります。

WELgee設立時の活動で掲げていた「Talk with、Live with、Work with」の“Work with”ですね。

初めのうちは真の課題がどこにあるのかわからず、以前WAOで登壇した際(https://wao-koishikawa.com/reports.php?rid=36)も3つを並列にしていたのですが、1年~半年前くらいからだんだんと活動の中心が“Work With”に落ち着いてきたという感じです。“Talk With”を通して夢と意欲にあふれた難民の存在を知り、難民認定を待つだけとは別の選択肢があってもいいのではと考えた時に、これが最も意味のある形なのではないかという結論に行き着きました。

社会課題に取り組む上で大切だと思うことを教えてください

持続可能であることだと思います。10年先、20年先に、WELgeeがなくなったとしても、それまでの取り組みが社会の機能として組み込まれてしていることが大事。様々な背景から、一度は難民となった人であっても、自分らしく働き続けられるための機能が今の社会にない時中で、そのための取り組みが自然な形で“社会の仕組み”になるまでを繋いでいくことが、NPOとしての私たちの仕事だと思っています。

また、持続可能を実現していくためには、ビジネス的な観点も大切です。政権や社会情勢の変化などによって助成金が下りないとなった時でも事業がまわるよう、自分たちの足で立っていられる事業モデルの確立を目指しています。

“自分たち以外の正義”を認めることが“自分たちの強み”になる

現在の取り組みを“社会の仕組み”にしていくために大事にしていることはありますか?

現在の取り組みを“社会の仕組み”にしていくために大事にしていることはありますか?

自分たちの正義だけが正しいと思い込みすぎないようにしています。私たちの取り組みを社会の仕組みにするためには、難民なんて関係ないと思っている人に興味を持ってもらい、難民問題について“自分”を主語にして語れる人を増やしていくことが必要です。“自分たちの輪”、つまり協働先を広げていくことが、この課題の根幹に風穴を開けていくことになると考えています。

一見、どんなに良さそうなことであっても、自分たちの正義にこだわりすぎて、自分たちの考えと少しでも違う人たちを排除してしまうことは、いつまでたっても輪は広がっていかないですし、視野もどんどん狭くなってしまいます。

たしかに、社会課題を解決しようという想いが強くなるほどに、自分たちの正義を押し付けてしまい、視野が狭くなってしまうこともありますね。

たとえ考えが違っていたとしても、それは別の正義であって「悪」ではない。真逆の考え方にもそこに至る理由が必ずある。別の正義や意見があることを知り、排除せずに繋がりを持っておくと、ある時ある領域でお互いの目的が一致して、一緒に取り組みができるかもしれない。予測不可能な未来になっていった時、敵に見えていたものがそうでなくなるかもしれないわけです。自分たちの思い描く完璧な正義を貫いて前に進まないよりも、異なる考えを排除せずに耳を傾け、完全一致でなくても一緒にできそうなことは協力していく。そういうしなやかさを持って取り組んでいくことで、“彼らの課題”ではなく“私たちの課題”という風に主語で語れる人の輪を広げていきたいと思っています。

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PROFILE

渡部 清花(NPO法人 WELgee代表 / 東京大学大学院修士課程在籍 )

1991年、静岡県生まれ。様々な背景を持つ子どもたちが出入りするNPOの実家で育つ。大学時代はバングラデシュの紛争地にてNGOの駐在員、国連開発計画(UNDP)のインターンとして平和構築プロジェクトに携わった。2016年に日本に来た難民申請者の社会参画とエンパワーメントを目指すWELgeeを設立。2018年NPO法人化。空き家活用型シェアハウス事業や経験・スキルを活かした就労事業に取り組む。自身も難民と暮らす。英語より得意なのはバングラデシュの先住民族語(日本人で2人しか話せない言語)!
グローバル・コンソーシアムINCO主催『Woman Entrepreneur of the Year Award 2018 (女性起業家アワード2018)』で、グランプリを受賞。Forbes 30 under 30のJapanとAsia にて選出。東京大学大学院 総合文化研究科・人間の安全保障プログラム 修士課程在学中。トビタテ!留学JAPAN一期生。内閣府世界青年の船事業第24回代表青年。


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