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Apr 2017

イノベーションを創発する「働き方」

酒井穣( 株式会社BOLBOP  代表取締役会長 )

「オランダで暮らした約9年の経験を、日本への恩返しにつなげられないかという思いから、帰国の決断をしました」。そう話すのは、コンサルティング企業である株式会社BOLBOP創業者・代表取締役の、酒井穣(さかい・じょう)さん。

酒井さんは、多数の著作があることで有名で、ビジネススクールの教授やNPOの理事としてもご活躍だ。東日本大震災の被災地においても、活動を続けている。介護にも深い知見をもち、介護メディアKAIGO LAB(http://kaigolab.com/)を立ち上げ、その編集長・主筆としても活動している。

酒井さんは、日常的に、人事コンサルティングと、新規事業開発コンサルティングを軸とした仕事をおこなっている。スタートアップ企業と大企業のマッチングもまた得意分野だ。ご自身でも、ヘルスケア領域において3社のスタートアップ企業に経営参画している。そうした意味では、一般のコンサルタントの枠を超えた、かなりユニークな存在だ。

酒井さんの活動は、幅が広すぎて、つかみどころがないようにも見えるかもしれない。しかし、酒井さんのすべての活動の根底には、成熟社会オランダで体験した「誰もが、なにかの犠牲にならずに、のびのびと生きられる社会」を実現するという使命感がある。

新規事業における組織の役割を考える

酒井さんは、スタートアップ支援をするなかで、大手企業とのマッチングまでおこなっていますが、その背景にはどのような考えがあるのでしょうか

(酒井氏)新規事業の創出は、日本にとって最重要の課題です。これを実現するには、複数の組織が、チームを組んでいくことが不可欠だと思っています。そのためには、個々の組織は、自分たちの強みをチームの中での「役割」として自覚していくことが大切です。実際に、なんでも自分でやろうとして成功している組織を私は知りません。逆に失敗の多くは「成功を独占したい」という発想の貧困が原因だと思っています。

たとえば、少なからぬ大企業は「新たな主軸となる新事業」をつくりだしたいと思っています。そして、大企業の目線から「主軸」と言えるような事業のスケールは、非常に大きいものです。そうした大企業の要求を満たせるスケールを100%としましょう。しかし、新規事業の創出というものは、そもそも、0%(なにもない状態)を1%にすることに命をかけるような仕事です。なんとか1%を生み出せたとしても、それは、大企業からすれば、求めている事業の100分の1にしか見えないものです。

では、大企業には新規事業の創出ができないのでしょうか。それは違います。大企業にしかできない、新規事業の創出における「役割」があります。それは、10%にまで到達しているスタートアップと組んで、それを10倍の100%にまで成長させるというものです。私の考えでは、大企業は、10%を100%にするプロセスに最適化されている組織なのです。

世間でよく言われるような「大企業にはイノベーション人材がいない」というのは間違いです。たんに、大企業がイノベーションを起こすときの「役割」が、スタートアップとは違うというだけのことなのです。大企業は、自分たちで0%を1%にしようとするのではなく、10%に到達している多数のスタートアップと関わるべきです。それらをポートフォリオとして管理しつつ、それぞれの成長を支援することで、この社会に巨大なイノベーションを起こすことができるでしょう。

逆に、0%を1%にして、それをさらに10%にまで高めるという世界は、失敗を前提としていないと不可能です。しかし、大企業は、失敗を許容する文化を持ちません。「チャレンジを評価する」と言うのは簡単ですが、本当にそんな大企業があるでしょうか。なんの実績もない、失敗ばかりの人材が昇進していく大企業が存在しますか?そもそも、大人の世界というのは、実績だけで評価されるものでしょう。「よく頑張っている」というのが褒め言葉になるのは、子供の世界だけです。

まずは、苦しくても大企業における「失敗できない文化」の存在を認めることが大切です。本気でこの文化を変えようとするなら、既存の株主に対して、収益が極端に下がることを認めてもらわなければなりません。上場企業の場合、それは、現実的なものではないでしょう。しかし、こうした文化を批判して「だから大企業はダメなんだ」というのは、大きな間違いです。むしろ、だからこそ大企業は成功してきたという歴史を直視するべきです。スタートアップと大企業とでは、単純に社会的な「役割」が違うのです。

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PROFILE

酒井穣(株式会社BOLBOP 代表取締役会長)

慶應義塾大学理工学部卒業、オランダ Tilburg 大学 MBA 首席卒業。商社勤務後オランダに渡り、オランダにて約9年間を過ごす。2009年に帰国しフリービット株式会社(東証一部上場)に参画し、人事や経営企画を統括する取締役に就任。著書は『はじめての課長の教科書』など多数。事業構想大学院大学・特任教授。NPOカタリバ理事。介護メディアKAIGO LAB編集長・主筆。誰もが自分らしく生きられる社会の実現を目指し、2013 年に株式会社BOLBOPを設立し、代表取締役として活動。


株式会社BOLBOP(http://www.bolbop.com/)

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